ろうかと、いろいろ考えつづけた。
そのうちに、歩きくたびれて、青二は小公園のベンチに腰をおろした。
おなかもすいたので、包《つつみ》をあけて、パンを取出してたべた。びんにつめていた水をのんだ。おなかのすいたのが少しなおり、のどのかわきがとまった。
だが、青二はかなしくなった。
「この次の食事から、自分で買って、たべなくてはならない。お金はすこしあるが、一日二日たてば、それもなくなるだろう。それから先はどうしたらいいのだろう」
青二はうちへもどろうかと考えた。
「いやいや、こんな化け物みたいなからだを持って帰ったら、お母さんがなげきかなしむばかりだ。どんなにうちがこいしくても、自分はうちへかえれないのだ」
ぽたぽたとあつい涙が青二のほおをつたって、膝のうえへ落ちた。
「おい坊や。なにをそんなにふさいでいるんだい」とつぜん声を青二にかけた者がいた。
青二はびっくりして顔をあげた。するとそこには一人の青年が立っていた。ダブルの背広を着、頭髪をながくのばして、きれいに分けた紳士風の青年だった。しかし服装の小ぎれいなわりに、顔はやけトタンのようにでこぼこし、四角な頬《ほほ》には、にきびがたくさんふき出ていた。
が、青年は、にこやかに笑顔をつくって、青二を見下ろしていた。
「泣くなんて、男の子のすることじゃないよ。おれだって引揚げて来たときは泣きたくなったさ。だけど、泣いたってしょうがないと思ってあきらめて、あとはどんな苦しいことがあっても、にこにこして暮らしているさ。楽天主義《らくてんしゅぎ》にかぎるよ。そして困ったら、三日でも四日でもよく考えるんだ。考えて、道がひらけないことってないよ。坊やお前はうちがないんだろう」
いいえ、と答えようとしたが、青二は今はうちを出たんだから自分はうちなしだ。だから青二はうなずいた。
青年は「そうだろうと思った」といって「それから、食うに困っているんだろう」ときいた。
青二は、やっぱりうなずくしかなかった。
「よおし、心配するな。おれについて来い。お前ひとりぐらいは、たらふく食わせてやる。さあ行こう」
どうしてその青年が、青二にそう親切《しんせつ》なのか分らなかった。しかし今はその青年に力を借りるよりほか道がないことが、青二に分っていた。そこで青二は、この青年に、重大な秘密をあかすことにした。
ただし青二は、自分のことは、さすがにいいだすことが出来なかった。猫のことだけを話したのである。
すると青年六さんは、目をかがやかして喜んだ。
「え、そいつは、すばらしいじゃないか。たいへんな金もうけがころがりこんだものだ。いや……お前、これは大もうけになるぜ。おれに万事《ばんじ》をまかせなよ。そして利益は五分五分に分けよう」
六さんはすっかり乗り気になった。
「ところでちょっと、その本尊《ほんぞん》さまというのを見せてくれよ」
そこで青二は、猫のはいっているふろしきを、六さんにさわらせた。
「なるほど、たしかにこの中に、猫みたいなものがはいっているぞ」
「そこで、ふろしきの中をのぞいてごらん」
青二は、ふろしきのはしをすこしあけて、六さんに中をのぞかせた。
「おや、いないね。あら、ふろしきの外からさわると、ちゃんとはいってるんだが……」
ふしぎに思った六さんは、こんどは手袋をはめた手を、ふろしきの中にさしいれた。
「ありゃりゃ、おどろいたなあ。ちゃんと猫みたいなもののからだにさわる。ふーん、やっぱり透明猫だ。インチキじゃねえ。へえーっ、お前はまあ、大した金のなる木を持っているじゃねえか。よし、これなら小屋がけをして、一人十円の入場料で、いらっしゃい、さあいらっしゃい、さあいらっしゃいとやれば、一日に二千人ははいる。すると一ン二が二で二万円」
青二はおどろいた。何といい計算の名人だろう。
「二万円はすこし少ないなあ。入場料を二十円にあげる。そのかわりお客をあおってしまう。ええっと『十万円の懸賞《けんしょう》』だとゆくんだ。『もしこの透明猫がインチキなることを発見されたるお客さんには、即金で、十万円を贈呈《ぞうてい》いたします』と書いてはりだすんだ。するてえと、慾の皮のつっぱった連中がわんさわんさとおしかけて、十万円とふしぎな見世物の両方につられてどんどんはいる。二十円の入場料だってやすいくらいだ。まず一日に二万人ははいるね。すると二二ンが四で、四十万円だ。ほう、これはこたえられねえ」
大懸賞《だいけんしょう》の見世物《みせもの》
その小屋がけは、六さんの顔がすこしはきく、ある盛《さか》り場にたてられた。
「現代世界のふしぎ、透明猫《とうめいねこ》あらわる」
「これを見ないで、世界のふしぎを語るなかれ」
「シー・エッチ・プルボンドンケン博士曰く、“透明猫は一万年間に一ぴ
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