あった。それを出すと彼はあやしい動物の後足二本を、そのひもでいっしょにぐるぐるしばってしまった。
 こうすれば、このあやしい動物は、前足も後足も二本ずつしばられているんだから、もう歩くことができない。歩くことができなければ、この部屋から、出てゆくこともない。よしよし、これなら大丈夫と、青二はそれがすむと、机の上にそっとおいて、はしご段を下へおりていった。
 夕飯のおぜんを、母親とかこんで、いつものように食べた。母親は、放送局にはかわったことがなかったかと聞いた。青二は、なにもかわったことがなく、お父さんは鉛筆を一本くれたと、答えた。
 食事がすんだ。
 母親が台所の方へいっているひまに、青二は皿の上からたべのこりの魚の骨をそっと掌《てのひら》へうつした。そして急に立って、二階へとんとんとあがっていった。
「青二、お待ちよ、りんごを一つ、あげるから……」
 母親が声をかけたが、青二は、
「うん。あとでもらうから、今はいいよ」
 と、いいすてて二階へあがった。すぐ机の前へとんでいった。
 机の上には、見おぼえのある赤と青とのだんだらのひもと、ゴムのバンドがあった。気味のわるい二つの目玉らしいものも、そこにあった。
「にゃーお。う、う、う」
「これがほしいんだろう。さあ、おたべ」
 青二は、魚の骨を、光る目玉の下へおいてやった。すると、かりかりと骨をかむ音がした。骨がくだけて、机の上からすこしもちあがった。そしてそれはやがて線のようにつながって、だんだんと上にあがり、それから横にのびていった。
「き、気持がわるいなあ」
 青二は、ぞっとした。魚の骨が、動物の口へはいってくだかれ、それから食道をとおって、胃ぶくろの方へ行くらしい。それが透《す》いてみえるのだった。
「ふーん。たしかにこれは見えない猫だ。透明猫だ。なぜこんなふしぎな動物が生きているんだろうか」
 青二は、おそろしくもなったが、またこの見えない猫が貴重なものに思われてきて、膝の上にのせてしきりになでてやった。
 そのうちに、二つの目玉が動かなくなった。透明猫は、膝の上でねむりはじめたらしい。しかしそのとき、青二がふしぎに思ったのは、拾ったときはたいへんはっきり見えていた目玉が、今はぼんやりとしか見えないことだった。

   おそろしき事件

 あくる日、青二はいつものように五時に起きた。
 父親は、まだねていた
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