た家へつれこんで、すごいごちそうを注文し、酒をもってこさせて、大宴会をやった。
 六さんの体に酒が入ると、急にことばがからんで来た。
「やいやい、坊《ぼう》や。なんだってお前は、まだ帽子をとらねえんだ。おれを甘くみてやがるとしょうちしねえぞ。こら、帽子をとれ。手前はこの総裁六さん――じゃあねえ、何とか六麿のアソンを何と思ってやがるんだ」
 そばにいた女たちが、六さんをとめたけれど、六さんはとうとう青二におどりかかって、その帽子をひったくってしまった。
「ああっ――」「きゃあ――」えらいさわぎが起った。
 六さんは一ぺんに酒のよいがさめてしまうし、女たちは悲鳴の声をひきながらその座敷からにげだした。
 なぜ。青二の帽子の下には、なんにもなかった。首のない青二が、そこにめいわくそうに動いているだけだった。
 六さんは、腰をぬかしてしまって、口をぱくぱく開くがひとこともいえなかった。
 さて、その夜のさわぎもどうやら片づいて、六さんと青二は、そこを引きあげた。そのとき六さんは、口どめ料として、そのうちへ五万円を出した。
 二人はホテルへとまった。
 六さんはベッドの上で、青二に相談をかけた。どうだ青二も透明なものなら、透明猫の見世物よりも「透明人間あらわる」の方が、人がたくさん集まるから、青二が思い切って見世物になるようにすすめた。
「いやです。ぼくはいやです」
「ばかだねえ、お前さんは。こんなすばらしい儲け口は又とないよ。どうやすく見つもっても億円のけたのもうけ仕事だ。それをにがす法はない。さあ、透明人間でやってください」
 下からおがまんばかりに、六さんはくどいた。しかし青二は、しょうちしなかった。
 その夜はそのままとなり、次の日の朝が来た。青二はベッドから下りて背のびをしたが、ふと、となりのベッドを見ておどろいた。
 なんということだろう。たしかに六さんと思われる人物が、そのベッドの上にねむっていたのであるが、顔も手足ももうろうとしていた。そして大きな二つの眼の玉だけが光っていた。六さんも透明人間《とうめいにんげん》になりつつあるらしい。
 さわぎはその日に全市へひろがった。
 それはあっちでもこっちでも、人間がかげがうすくなる事件、だんだんからだが消えて見えなくなってゆく事件が発生して、大さわぎとなった。
 そういう人たちは、しらべてみると、みんな前の日に、「透
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