は、さすがにいいだすことが出来なかった。猫のことだけを話したのである。
 すると青年六さんは、目をかがやかして喜んだ。
「え、そいつは、すばらしいじゃないか。たいへんな金もうけがころがりこんだものだ。いや……お前、これは大もうけになるぜ。おれに万事《ばんじ》をまかせなよ。そして利益は五分五分に分けよう」
 六さんはすっかり乗り気になった。
「ところでちょっと、その本尊《ほんぞん》さまというのを見せてくれよ」
 そこで青二は、猫のはいっているふろしきを、六さんにさわらせた。
「なるほど、たしかにこの中に、猫みたいなものがはいっているぞ」
「そこで、ふろしきの中をのぞいてごらん」
 青二は、ふろしきのはしをすこしあけて、六さんに中をのぞかせた。
「おや、いないね。あら、ふろしきの外からさわると、ちゃんとはいってるんだが……」
 ふしぎに思った六さんは、こんどは手袋をはめた手を、ふろしきの中にさしいれた。
「ありゃりゃ、おどろいたなあ。ちゃんと猫みたいなもののからだにさわる。ふーん、やっぱり透明猫だ。インチキじゃねえ。へえーっ、お前はまあ、大した金のなる木を持っているじゃねえか。よし、これなら小屋がけをして、一人十円の入場料で、いらっしゃい、さあいらっしゃい、さあいらっしゃいとやれば、一日に二千人ははいる。すると一ン二が二で二万円」
 青二はおどろいた。何といい計算の名人だろう。
「二万円はすこし少ないなあ。入場料を二十円にあげる。そのかわりお客をあおってしまう。ええっと『十万円の懸賞《けんしょう》』だとゆくんだ。『もしこの透明猫がインチキなることを発見されたるお客さんには、即金で、十万円を贈呈《ぞうてい》いたします』と書いてはりだすんだ。するてえと、慾の皮のつっぱった連中がわんさわんさとおしかけて、十万円とふしぎな見世物の両方につられてどんどんはいる。二十円の入場料だってやすいくらいだ。まず一日に二万人ははいるね。すると二二ンが四で、四十万円だ。ほう、これはこたえられねえ」

   大懸賞《だいけんしょう》の見世物《みせもの》

 その小屋がけは、六さんの顔がすこしはきく、ある盛《さか》り場にたてられた。
「現代世界のふしぎ、透明猫《とうめいねこ》あらわる」
「これを見ないで、世界のふしぎを語るなかれ」
「シー・エッチ・プルボンドンケン博士曰く、“透明猫は一万年間に一ぴ
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