なげだし、日本人の名をはずかしめないことをちかって、じつに大胆不敵な方法でもって、この動く島から逃げだしたのです。
そのいさましい冒険物語を、くわしくかくと、とても、皆さんがおよろこびになると思いますが、ざんねんながら、私はそれをいま、くわしくお話ししているひまがありません。
だから、そのあらすじを、かいつまんでお話をいたしておきましょう。
かの怪外人が、豆潜水艇のうごかし方がわからないという知らせを部下の人たちからうけて、たいへんざんねんがり、そして、青木学士をせめつけたことは前にいいました。
そこで、ともかくも学士が折れて、怪外人をその豆潜水艇の中に案内したのです。もちろん、その外《ほか》に、三人ばかりの下士官や、機関兵が中へはいってきました。
学士は四人を前にして、いろいろと熱心そうにみせかけて、なるべくむずかしく、機械類の説明をはじめました。四人はだんだんそれに気をひかれて、水上少年のいることを忘れてしまいました。
じつは水上少年は、学士としめしあわせてあって、四人の外人がすきをみせたら、この豆潜水艇の中にかくしてある軽機関銃をとりだして、うしろから四人に手をあげさせ、それからつづいて、潜水艇の口蓋《ハッチ》をとじて、四人をあべこべに捕虜《ほりょ》にしてしまうつもりでありました。
そのようにしめしあわせて、水上少年がすきを狙《ねら》っているとき、とつぜん思いがけないことがおこりました。
それはこの動く島が、一大音響とともに、急に非常に大きくゆれだしたことです。つづいて、大ぜいのうなりごえがきこえました。
一体、なにごとであろうと思っていると、豆潜水艇のそばへかけつけた一人の下士官が、外から大きなこえを出して、たった今、この動く島がとつぜん、もうれつな魚雷攻撃をくらい、ついに穴があいて沈みそうだというのです。それをきいた怪外人をはじめ、艇内にいた四人は、あわてて豆潜水艇の外へとびだしていきました。
あとにのこったのは、青木学士と、水上少年との元の二人です。学士はいそいで口蓋をぱたりとしめました。そのころ動く島の中へは、どうどうと海水がはいってきて、中にいたアメリカの水兵たちは、おぼれそうになって、しきりに悲鳴をあげていました。
が、そのうちにその悲鳴も、ついにきこえなくなりました。動く島は、すっかり水びたしになり、おまけにあの大きな図体《ずうたい》が四つぐらいにわれて、海の底にしずんでいったのです。
それにひきかえ、二人ののった豆潜水艇は、ゆっくりおちついて、割れた動く島の間からゆらりゆらりと海中にうごきだし、そして安全に航海をつづけて、また元の日本へかえってまいりました。
二人のお土産は、例の動く島の秘密と、そしてめずらしいこの冒険ものがたりとでありました。二人はお手柄をたてたというので、たいへんほめられましたが、これもあの小さい水上少年までが、あくまでつよい子供として頑張ったから、それでこのようにうまくいったのでしょう。
大分かけ足で申しあげましたが、まだ何かお話ししないことがのこっていますか。ああそうか、動く島へ魚雷をうちこんだのは、どこの国の軍艦かというのですか。それはいまさら私が申しませんでも、もう皆さんにおわかりでしょう。
底本:「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」三一書房
1988(昭和63)年10月30日第1版第1刷発行
初出:「家の光」家の光協会
1941(昭和16)年8月〜1942(昭和17)年1月号
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2005年5月3日作成
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