水艇はしずみます。
 そうしないと、艇はおちたいきおいで一たんしずみ、しばらくすると、また海面にうきあがるから、それでは悪人どもにまたつかまると思ったので、すぐタンクをひらいて、艇が海底におりたまま、うきあがらないようにしたのです。しかしそのとき、右舷のタンクはひらいたが、左舷のメインタンクがひらかなかったので、左舷タンクには水が入ってきませんでした。そこで、艇はひどくかたむいていたのです。
 エンジンは、しきりにまわっています。
「防毒面はもうしばらくがまんしてかぶっているのだよ。今、艇内の毒ガスをおいだすと、そばにいる例の怪しい船にしれるからね」
 青木さんが、ふと気がついたようすで、いいました。
「いつまでも、がまんできますよ」
「しかし、あのときは、あぶなかったねえ。悪い奴が、毒ガス弾をなげこんだとき、あわてないで、すぐ用意の防毒面をかぶったからよかったが、うっかりしていれば、今ごろは冷たくなって死んでいるよ」
「それよりも、ぼくは、青木さんが、艇内に防毒面をそなえておいた、その用意のよいのに、かんしんするなあ」
「そんなことは、べつにかんしんすることはないさ。コレラのはやる土
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