国道には、お巡《まわ》りさんが、交番の中から、じっと夜の番をしていました。
もし、国道をあやしいものがとおれば、「とまれ!」と命令して、しらべるつもりでありました。
お巡りさんの前を、豆潜水艇をのせたトラックは、すこしもとがめられないで、通りすぎていきました。
その次の交番でも、やはりおなじように、通りすぎました。
なにしろ、お巡りさんが見ても、憲兵《けんぺい》さんが見ても、造船学の大家が見ても、まさかトラックのうえに豆潜水艇がのっていると、気がつくわけがありません。
それもそのはずです。そのトラックの上にあるのは、どう見てもバスとしか見えません。まさかその下に、豆潜水艇がかくれていようなどとは、神さまだって気がつかないでしょう。
トラックは、どんどん国道を西に走りつづけます。
豆潜水艇は、トラックのうえで、ごとんごとんと、ゆれています。
トラックの運転台では、運転手と、その横にのっているトニーという外人とが、英語で話をはじめました。
「トニーの旦那、ちょっとうしろを、みてください」
「なんだって、うしろをみろというのかね」
「なんだか、うしろでごとんごとんといっているが、大丈夫ですかい」
「なに、ごとんごとんといっているって。あ、そうか。ひょっとしたら、豆潜水艇が、車の上からすべりおちそうになったのかもしれない。まてよ、いましらべてやる」
トニーは中腰《ちゅうごし》になって、うしろへ懐中電灯をてらしてみました。
「大丈夫だよ。綱はちゃんとしているよ」
トニーは、バスと車体とをむすびつけている綱のむすび目が、しっかりしているのをみて、安心したのでありました。
そういわれて、運転手は、
「そうですかねえ。しかし、ごとんごとんと、いっていますよ。ふしぎだなあ」
「それは、お前の気のせいだろう」
「そうですかなあ」
運転手の耳には、トニーにはきこえない変な音がかんじるのでしょうか。
しばらくたって、運転手はまたトニーにはなしかけました。
「あ、またきこえた。トニーの旦那、いままた、大きくごっとんと、うごきましたよ。ああ気持がわるい。そのうちに、豆潜水艇が、道のうえに、ころがりおちてしまいますよ。もういちど、よくしらべてください」
「大丈夫だというのになあ」
トニーは、もういちど、綱のむすび目をよくしらべました。しかし、さっきと同じで、べつにとけた様子もありませんでした。
くらい海
そのうちに、トラックは、大きな川っぷちにつきました。
石垣《いしがき》の下に、だるま船が待っていました。
岸から板がわたしかけてありましたから、トラックのうえのにもつであるバスは、しずかに板のうえへおろされ、そしてだるま船の中につみこまれました。
「オーライ。さあ、早いところ、でかけよう」
トニーが手をあげると、だるま船は、すぐエンジンをかけました。
一同は、だるま船の中にのりうつりました。だるま船は波をけたてて、川下へくだっていきました。
くらい川の面には、このだるま船の行く手をさえぎるものもいません。
「しめた。水上警察《すいじょうけいさつ》も、こっちに気がつかないらしい。さあ、どんどんいそげ。本船じゃ、まっているだろうから」
だるま船は、川口を出て海に入ると、こんどはさらに速度をあげて、沖合《おきあい》へすすんでいきました。
「トニーの旦那、針路は真南でいいのですかね」
「まあ、しばらく真南へやってくれ。そのうちに、無電がはいってくるだろうから、そうしたら、本船の位置がはっきりする」
トニーは、舳《とも》に腰をおろして、しきりに受信機をいじっていました。
それからしばらくたって、トニーが、耳にかけていた受話器を両手でおさえました。
「あ、本船が出た。エデン号だ」
トニーは、耳にきこえるモールス符号《ふごう》を、すらすらと書きとっていましたが、そのうちに、彼も電鍵《でんけん》を指さきで、こつこつと、おして、なにごとかを無線電信で打ちました。
そうして、両方でしきりに通信をかわしていましたが、やがてそれもおわりました。
「おい、わかったぞ。左舷《さげん》前方三十度に赤い火が三つ檣《ほばしら》に出ている船が、われわれを待っているエデン号だそうだ。船をそっちへ向けなおして、全速力でいそげ」
トニーは、舷《ふなべり》をたたいて、そうさけびました。船は、向きをかえると、出るだけ一ぱいの力を出して、くらい海面をいそぎました。
エデン号に行きついたのは、それから約二時間のちのことでありました。
「エデン号かね。こっちはタムソン部長の命令で、豆潜水艇をつんできたトニーだよ」
「おう、まっていた。トニー君。大へんな手がらをたてたものだな。わが海軍でねらっていた青木学士の豆潜水艇を、そっくり手に入れる
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