水艇はしずみます。
そうしないと、艇はおちたいきおいで一たんしずみ、しばらくすると、また海面にうきあがるから、それでは悪人どもにまたつかまると思ったので、すぐタンクをひらいて、艇が海底におりたまま、うきあがらないようにしたのです。しかしそのとき、右舷のタンクはひらいたが、左舷のメインタンクがひらかなかったので、左舷タンクには水が入ってきませんでした。そこで、艇はひどくかたむいていたのです。
エンジンは、しきりにまわっています。
「防毒面はもうしばらくがまんしてかぶっているのだよ。今、艇内の毒ガスをおいだすと、そばにいる例の怪しい船にしれるからね」
青木さんが、ふと気がついたようすで、いいました。
「いつまでも、がまんできますよ」
「しかし、あのときは、あぶなかったねえ。悪い奴が、毒ガス弾をなげこんだとき、あわてないで、すぐ用意の防毒面をかぶったからよかったが、うっかりしていれば、今ごろは冷たくなって死んでいるよ」
「それよりも、ぼくは、青木さんが、艇内に防毒面をそなえておいた、その用意のよいのに、かんしんするなあ」
「そんなことは、べつにかんしんすることはないさ。コレラのはやる土地へいくには、かならず、水を水筒《すいとう》に入れてもっていくのと同じことだ。これからは、防毒面なしでは、外があるけないよ」
忘れもの
豆潜水艇のかたむきは、すっかりなおりました。艇は今、海のそこから五メートルほど上に、うきあがっています。
艇長さんの青木学士は、こんどは舵《かじ》をうごかす舵輪《だりん》にとりついて、かおを赤くしています。
「よし、このくらいで、ここをさよならしよう」
「青木さん、これからどっちの方へいくのですか」
「これから、ずっと沖の方へ出てみよう。その方が安全だし、ちょうど試運転にもいいからねえ」
「じゃあ、このまま外洋に出るのですね。ゆかいだなあ。青木さん、艇には、いる品ものはみんなそろっているのですか」
春夫は、しんぱいになって、たずねました。
「うん、ちょっと入れのこした品ものがあるんだ。しかし今さら、とりにかえるのも、めんどうなのでね」
「その足《た》りない品ものというのは、一たいなんですか。たべものとか、水とかが足りないのではないのですか」
「あははは。君はくいしんぼうなんだね。だから、たべものだの、水だののことを、しんぱいするんだ
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