の式場で、これをお目に懸けられるわけでございますが、あとは卓越した日本の土木建築家の手によりまして、足場を組んで建てていただくつもりでございます」
 などと挨拶《あいさつ》放送をやって、全国民をまた一入《ひとしお》感激させたのであった。
 その忠魂記念塔は、今ではS公園内に天空《てんくう》を摩《ま》して毅然《きぜん》と建っている。そして市民たちは、毎日のようにこの新名所の前に集まってきて、かつて欧州の野に赤き血潮を流した勇敢なる日本義勇兵の奮戦ぶりを偲《しの》んで、泪《なみだ》を催《もよお》しているのであった。
 そして今では、一般国民の某大国に対する感情も以前とはことかわり、たいへん穏《おだや》かになったのであるが、果して某大国はわが帝国に心からなる敬愛を捧げてくれているのであろうか。
 いや、それは残念ながら、そうではなかったようである。たとえば今、外国密偵団の監視をやっている有名な青年探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》が、数日前その筋から示唆《しさ》をうけた話の内容について考えてみるのが早わかりがするであろう。
「某大国の南太平洋における防備は、わずかこの半年の間に、従来の五倍大になった。飛行機、爆弾、燃料、食糧、被服などは、どの倉庫にも一杯になって、中には急造バラックの中に抛《ほう》りこまれているものもある。某大国は明かに日本に対して攻撃姿勢をとっているのだ。わが帝都《ていと》をはじめ、各地の重要地点を一挙にして空爆しようと思ってその機会を狙っていることは実に明かである。しかもこの際最も注意を要することは、かの老獪《ろうかい》なる某大国の作戦計画として、開戦の最も初期において帝都における諸機関を一挙にして破壊し去ろうとしているらしい。われわれの知りたいのは、かの某大国がいかなるところを狙っているかということだ。それが分れば、敵の今後の戦略がかなりはっきり見当がつこうというものだ。帆村君。この際、君の奮起を望むというのも、一《いつ》にこの点に皇国の興廃《こうはい》が懸《かか》っているからだ」
 この話で見ると、某大国はキューピーの面を被《かぶ》りながら、その面の下でもって恐ろしい牙を鳴らしているとしか思われない。
 こうして某大国の戦意ははっきり読めるのであるが、早く知らなければならないことは、これから某国がとろうとしている実際の攻撃計画がどんなものであるかとい
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