かもしれない。じっと耳をすましていたら、幽霊の吐息がきこえるのではないか、などと、いろいろと気をくばって、幽霊の発見に努力をしたのであった。
だが、幽霊のいるらしい気配は、一向《いっこう》にしなかった。
(どうも、へんだ。おれは、どう考えても、こんな新しい戦車の中に、幽霊がすんでいるとは思わない)
パイ軍曹は、そのとき、こんなことを思った。
(さっき、ピートと二人で、この戦車の中へ、とびこむとき、船員か戦友かが、ちょうど食べかけていた林檎を、二人のどっちかが、靴のさきでけとばして、この戦車の中へ、けこんだのではあるまいか。すると、あの林檎には、歯型のほかに、靴でけとばしたあとが、ついているかもしれない。もう一度、あの林檎をとりあげて、よくしらべてみよう!)
林檎と幽霊の関係に、パイ軍曹の悩みは、ひとかたではなかった。
パイ軍曹は、きょろきょろと、あたりを、みまわした。
「はて、林檎は、どこへおいたかな」
林檎が、見あたらない。
「おい、ピート一等兵。さっきの林檎を、もう一度、しらべたい。林檎は、どこにある」
「さあ、どこへいきましたかしら……」
ピートは、ふしぎそうにいった
前へ
次へ
全117ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング