とからだが、いやというほどぶつかり、そうかと思うと、鉄壁に、がーんと叩きつけられ、戦車が海底にやっと達したときには、とうとう二人とも気をうしなってしまった。
だが、この地底戦車は、よほどしっかりできているものと見え、万事異常はなく、車内の電灯も、ちゃんと点《つ》いていて、エンジンのうえに、長くなって倒《たお》れているパイ軍曹とピート一等兵の二人を、気の毒そうに照らしていた。
ここで、二人が、そのまま息をひきとってしまえば、もう『地底戦車の怪人』も、ここでおしまいになるはずである。これから後が、なかなか長くて面白い冒険談となるのである。だから、読者諸君は、パイ軍曹とピート一等兵とがたいへん好都合にも、間もなく息をふきかえしたことに気がつかれるだろう。
これは、二人にとって、どれくらい後のことだったか、さっぱり分らない。どっちが、先に気がついたのか、それも、はっきりしないが、とにかく二人は、
「うーむ」
「あ、いたッ」
と、別々に呻《うな》りながら、手足を、そろそろとうごかしはじめた。だが、四肢《しし》はくたくたになり、首の骨はぐらぐらになっているので、気の方は一足おさきに、相当しゃんとしながら、からだはいうことをきかないのであった。
「うーん、あ、たたたたッ」
「とめ、とめ、とめ、とめてくれたか」
と、うわごとのようなことを、二人は、とめどもなく喋《しゃべ》りちらす。二人が、傾斜した車内に、半身を起してあぐらをかくまでには、十七、八分もかかった。
「おい、ピート一等兵、だらしがないぞ」
パイ軍曹は、自分のことは棚《たな》にあげて、兵を叱りつけた。
「はい、軍曹どのが、あれから今まで、一度も号令をかけてくださらないものでありますから自分もつい休めをしていたのであります」
「なにをいうか。頭に大きな瘤《こぶ》をこしらえて休めもないじゃないか」
「いや、これも、軍曹にならったわけでありますが、さすがに上官の瘤は、自分の瘤よりも、一まわりずつ大きいのでありますな」
「ばかをいえ」
こう、へらず口が、どんどん出るようでは軍曹も一等兵も、瘤こそ作ったが、まず元気はもとにもどったものと思われる。
「おい、ピート、水が飲みたいが、水を持ってこい」
「はい、どこから、持ってきますか」
「……」
軍曹は、へんじをするすべを知らなかった。ここは、どうやら深い海底のように思わ
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