「これかね」帆村はニッコリ笑った。「これは岩が、室町の日本銀行をそっくり地下へ陥没させて、金貨を奪おうとしたのが、つい間違って東京百貨店を地下へ陥没させちまったのだよ。彼奴は、地底機関車を使って、百貨店の下へ予《あらかじ》め大きな穴を掘っておいて、時計仕掛けの爆弾で、これを陥没させたんだよ」
そういっているところへ、どこから出て来たか、大辻珍探偵が、大江山捜査課長はじめ地中突撃隊の一同と共にかけつけて来た。全身はビショビショだった。
「いやア、ひどい目に逢った。大地震があってネ、地中から吹き上げられたところが、日本橋の下のあの臭い溝泥《どぶどろ》の川の中サ」
大辻老は、目の前に、百貨店が埋《うずま》り、その反動で自分たちが吹き上げられて助かったなどとは気がつかず、大地震とばかり思っているところは、どこまでも大辻式だった。
とにかく、日本銀行は助かったが、陥没した東京百貨店をこれから掘りだすには、大変なことであろう。それはまたいずれ、地底機関車の御厄介にならねばならないだろう。
底本:「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房
1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行
初出:「講談雑誌」
1937(昭和12)年1月号〜10月号
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2002年12月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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