いやというほど殴《なぐ》った。「さあ引返せッ」と隊長が呶鳴《どな》った。すわ何事が起ったのだろう。


   生埋《いきうめ》の一行


「うわーッ、たいへんだッ」
「どうしたどうした」
「今通った道が崩《くず》れて、帰れなくなった」
「なに帰れない」大辻老の顔色は紙のようにあせた。「帰れないとたいへんだ。早く掘って穴をあけといて下さい」
 しかし隊長は一向号令を下さない。さすがは捜査課長だ。這《は》いつくばって崩れた土の臭《におい》を熱心に嗅《か》いでいるのだ。
「おお、ダイナマイトの小型のを仕掛けた者がいる。油断をするなッ」
「大丈夫です。大丈夫です」と一同。
「ダッ、ダイナマイトですって」大辻老は気が変になった鶏のように、一人でバタバタ跳《は》ねかえっている。
「崩れた箇所はあのままにしておいて、一同前進!」隊長は勇ましい号令を下した。
 だッだッだッと、一行は小さく固まって、懐中電灯をたよりに、低い泥の天井の下をドンドン前進した。
「左、左、左へ曲れ」
「オヤ道が行きどまりだ。おかしいぞ」
「うん、これは一杯|食《く》ったかな――集れッ」
 と隊長の号令だ。
「番号」
 一チ、二イ、三ン……。
「オヤ一名足りないぞ。誰がいなくなったのだッ」
 確かに一名足りない。どこへ消えたというのだろう。その足りない男については、誰もかもどこの誰だかハッキリ知らなかった。一同は心臓をギュッと握られたように、無気味《ぶきみ》さに慄《ふる》えあがった。


   岩のいた証拠


「オイ大辻君。君の大事にしている足型は、こういうときに使わなくちゃ、使うときがないよ。ちょいと貸したまえ」
「イヤイヤイヤイヤ」と大辻は仰山《ぎょうさん》にその手を払いのけた。「探すのは、わしに委《まか》せなさい。貸すくらいなら、壊した方がましだ」
「そんな意地の悪いことをいわないで……」
「どいたどいた、わしが探す。ホラ皆さん、足を出して……」
「失敬なことをいうな」
 そんなにまで騒いだが、一名|欠《か》けた残《のこり》の十名の中には岩は絶対にいないことが解った。
「いませんよ。大丈夫です。隊長さん」
「じゃ、今まで来た軟かい道の上から行方不明の警官の足跡を探して、調べてみたまえ」
「はいはい」
 大辻老は向《むこ》うへ懐中電灯をたよりに引返《ひっかえ》していった。そしてしきりと路上にかがまって
前へ 次へ
全28ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング