珍探偵大辻だった。
「オイ三吉どん」と大辻が真赤な顔をしていった。「僕等もこの地中突撃隊に参加させて貰おうじゃないか。この方が岩をとッ捕《つか》まえる早道だぜ」
「そうだね」と三吉は例の調子で黒い可愛い眼玉をクルクルさせていたが「僕は反対するよ」
「なに反対をする。この弱虫め!」
「僕はいままで探偵してきたことを続けてゆく方がいいと思うんだ」
「なんのかんのというが、実はこわいのだろう。わし[#「わし」に傍点]はそんな弱虫と一緒に探偵していたくはないよ。帆村先生が帰って来て叱《しか》られても、わし[#「わし」に傍点]は知らぬよ」
「叱られるのは大辻さんだよ」
「いや、もう弱虫と、口は利かん」
 とうとう三吉と大辻とは別れ別れになってしまった。
 大辻老は決死隊に参加を許されると、いよいよ大得意だ。ふんぞりかえって、自動車に乗っている。ナポレオンのような気持らしい。しかも岩の足型を大事に小脇に抱えている。
「大辻さん。その足型を壊《こわ》しちゃ駄目だよ」
「なアに大丈夫……おっとッとッ。お前とは口を利かぬ筈《はず》じゃった」
 仕度は出来た。突撃隊の自動車は一列に並んで出発した。横浜正金銀行さして……。


   「はてな」の室町《むろまち》附近


 三吉少年は一人残されたが、失望しない。
「すみませんが、ちょっと測《はか》らして下さい」
 そういって彼は日本橋|界隈《かいわい》の地下室のあるところを一軒一軒廻っては、携帯用地震計を据《す》えつけて測って歩いた。
「一体、何を測るんだい」
「おじさんの家は大丈夫だということが分るんですよ」
「なにが大丈夫だって」
「それは今に分りますよ。フフフ」
 こんな会話をしながら三吉は歩いて廻った。しかし三吉が室町方面に近付くに従って、彼の顔はひきしまってきた。
「はてな」と彼は日本銀行の地下室でいった。
「はてな」と又、東京百貨店の地階でいった。
「はてな」と彼はまた三井銀行の地下室でもいった。
 三吉は、その三つの場所で、いつも休みなく伝わってくる小地震を感じた。それは地底のはるかの下から伝わってくるのであって、決して地上からではない。本当の地震はごくたまにやってくる。しかも強くひびくところはごく短い時間だけだ。しかしこの室町界隈では不思議な連続地震が起っている。
「これは何かあるぞ!」
 しばらくの間、ジッと考え込んでい
前へ 次へ
全28ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング