大きい男をたしなめた。「僕たちは警視庁の連中よりは早く、事件の正体に向きあっているのだよ」
「事件の正体?」
「そうだ。これを御覧よ――」
 そういって三吉は地盛をした一|箇所《かしょ》に鋭い指を向けた。ああ、一体そこにはどんなに驚くべき事件の正体が暴露していたろうか。


   怪盗の怪電話


 世界に一つしか無い地底機関車の行方《ゆくえ》も判らねば、怪盗「岩」の行方も知れない。大辻珍探偵は、岩と月島海岸で言葉を交《か》わしたが、気がつかなかった。駈けつけた少年探偵三浦三吉も口惜しがったが、すべてはもう後の祭だった。
 岩は地の底へ巧みに作られた自分の巣窟《そうくつ》に帰ると、いきなり部下を集めて下した大命令! さてどんな大事件が、「岩」の手によってこれから捲《ま》き起されようとしているのだろうか。
 非常な早朝だのに、警視庁の大江山捜査課長のところへ、ジリジリと電話がかかってきた。
「ああ、もしもし。大江山ですが……」
「大江山さんだね」
 と相手は横柄《おうへい》な口のきき方をした。
「大汽船エンプレス号が百万|弗《ドル》の金貨を積んで横浜に入港しているが、あれは拙者《せっしゃ》が頂戴するから、悪く思うなよ」
「なッ、なにをいう。何物かッ貴様は――」
「岩だ!」電話はハタと切れた。


   理科大学の盛土《もりつち》


「岩だ。それ――」
 と、命令一下、かねてこんなこともあろうかと用意して待っていた特別警察隊は、ラジオを備えた警視庁自慢の大型追跡自動車で、京浜《けいひん》国道を砲弾のように疾走《しっそう》して行った。
 そのころ三吉と大辻とは、理科大学の新築場《しんちくじょう》に立って首をひねっていた。
 月島海岸から十台のトラック隊を追跡して行った二人は、思いがけなくも、本郷の理科大学の中へ着いたので驚いたわけだった。
 そして、そこまで送ってくれた自動車の中から、一人の怪人物がノコノコおりてきたが、これがいま鉱物学者として世界に響いている、真鍋博士だったので、二度びっくりだった。博士はスタスタと研究室へ入ってしまった。
(二度あることは、きっと三度ある)
 と諺《ことわざ》にいうとおり、二人はとうとう三度目のびっくりにぶつからねばならなかった。
「この盛土はおかしいね」と三吉少年は叫んだ。
「そういえばおかしいね」と大辻も目をショボショボさせて叫ん
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