っている。その時だった。
「はてな?」
 砂地にうずくまっていた少年探偵三吉は、そう呟《つぶや》くとつと立ち上った。


   追跡急!


 三吉の見つめる五百メートル彼方の路に、今しも大きい貨物自動車が、十台ばかり列を組んでユラユラと動きだしているのだった。
「大辻さん、あれを御覧よ」と三吉は後を振返った。
「貨物自動車だね。新品のようだ。あれだけあれば、自動車屋としても結構食べてゆけるがなア」とどこまでも慾が深い。
「あの自動車隊は立派すぎると思わない? 何を積んでいるのかわからないが、皆ズックの覆《おお》いをかけている。どこへ行くんだか検《しら》べてみようよ」
「よし、見失《みうしな》わないように追掛《おっか》けよう。……この潜水服は勿体ないが、ここに捨てておけ」
 二人は空腹《くうふく》を抱《かか》えて一生懸命に駈け出した。幸《さいわい》に例の貨物自動車は、路面の柔いのに注意してか、ソッと動いている。
 四五分経つと、いい舗道《ほどう》へ出たと見えて、自動車隊は速力をグンとあげた。見る見る自動車の姿は小さくなってゆく。
「チェッ。まだ大通へ出られないのかなア」
「早く円《えん》タクでもつかまえないと駄目だぞ」
「ああ、しめしめ。あっちからボロ貨物自動車がやって来た。オーイ、オーイ」
「オーイ。乗せてってくれよオー」
 やっと二人はボロ貨物自動車を停めることができた。運転手に頼んで、荷物を積みこむ後の函の中へ乗りこませて貰った。
「お礼はたんまりするから、僕のいうように走らせてくれ給え」
「さあそれは――」と運転手は考えていたが、
「一つ中のお客さんに相談して下さいよ」
 中のお客さん? 二人は驚いて後をふりかえって見ると、今まで一向気がつかなかったが、その函の片隅に薄汚い洋服を着た中年の男が、膝小僧《ひざこぞう》を抱えてよりかかっていた。睡っているらしい。


   怪トラックの行方


 睡っていると思った洋服男は、実は睡っていなかった。
「わしは反対じゃ。わしは理科大学の地質学講座を持っている真鍋《まなべ》じゃ。探偵のお伴は御免《ごめん》じゃ。皆下りてくれんか。この車はわしが契約しとるのでな」
「こいつ大きな口を利く男じゃな。畳《たた》んじまった方が早い」
 と大辻は飛びかかりそうだ。
「待てったらお待ちよ大辻さん。この人は先生だから大きな口を利くんだ
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