の手腕《しゅわん》に嫉妬《しっと》を感ずるほどだ。
「これだこれだ山野《やまの》君」と彼は私の名を思わず大きく叫んだ。「例の箱がいつ何処《どこ》で作られたんだかすっかり判っちまったよ。第一回の箱は七月四日の製造だ。第二回目のは七月十八日の製造だ。そして第三回目のは今から一週間前、実に八月八日の製造だということが判ったよ」
「そりゃどうして?」私はすっかり駭《おどろ》いた。
「ナニこれは殆んど努力で判ったのさ。今日は箱の山がどんな形に、どんな数量を積み重ねてあるかを知りたかったのだ。あとは発送簿《はっそうぼ》の数量を逆に検《しら》べてゆくと、あの箱を積んだ日、随《したが》ってあれを製造した日がわかるという順序なんだ」
 よくは呑みこめなかったけれど、やっぱり頭脳の冴《さ》えた辻永だと感心した。
 例の箱とは、前後三回に亙《わた》って発見された有名なる箱詰屍体《はこづめしたい》事件の、その箱のことなのである。
 細かいことは省略するが、その三つの屍体はすべて此《こ》の貨物積置場に積まれてあったビール箱の中から発見されたのだった。その箱は人間の身体がゆっくり入るばかりか、ビールがその隙間《すきま》に五ダースも入ろうという大量入りの木箱だった。
 事件を並べてみると、不思議な共通点があった。第一に、屍体の主《ぬし》はいずれも皆、若いサラリーマンや学窓《がくそう》を出たばかりの人達だった。第二にいずれも東京市内の住人《じゅうにん》だったのも、大して不思議でないとしても、不思議は不思議である。但《ただ》し三人の住所は近所ではなくバラバラであった。第三に三人の屍体は同様の打撲傷《だぼくしょう》や擦過傷《さっかしょう》に蔽《おお》われていたが、別にピストルを射ちこんだ跡もなければ、刃物《はもの》で抉《えぐ》った様子もない。もう一つ第四に、三人とも殺されるほどの事情を一向持っていなかったということ。それからこれは附《つ》け足《た》りだが、三人が三名とも名刺入れをもっていて、直ぐに身許《みもと》が判明したそうだ。
 ビール会社では、こんな青年の屍体が、どうして箱の中に入っていたか判らないと弁明《べんめい》した。その工場の内部を隅々まで調べてみたが、そんな青年達の忍びこんでいたような形跡《けいせき》は一向《いっこう》見当らなかった。ビール瓶に藁筒《わらづつ》を被《かぶ》して自動的に箱につ
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