中毒に原因するのか、或いは異常なる驚愕等によるものかどっちかでしょうな」
「そのどっちだか分らんですか」
「分らんねえ。研究の結果がうまく出れば分るかもしれん」
 長谷戸検事は、小さく肯いて、心の中に何かノートをとるらしく見えた。
「ちょっと伺いますが」
 と大寺警部のきんきん声がした。
「ピストルの弾丸が頭の中に入った時刻と、死んだ時刻との差はどの位だか分りますか」
「あまりはっきり分らんね」
「大体何時間ぐらい後になりますか、ピストルの弾丸を喰らったのは……」
「何時間というような長い時間じゃない。極く接近しているよ。一時間前後という所だ」
「すると、死んだのは十一時半、ピストルの弾丸を喰ったのは零時半という訳ですね」
「そんなところだ」
 古堀博士はぶっきら棒に応えた。
「解剖の結果、胃の中にあった食物の一覧表は出来ていますね」
 検事が、もう一度発言した。
「それは先刻、書記へ渡しておいたがね」
「いや、そんなものは頂きませんですよ」
 色の真黒な書記が、すっくと突立って打消した。
「そんな筈はない。ちゃんとわしは書いて――ああ、あった。ポケットの中に残っていた。これじゃ」
 
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