旗田氏が心臓麻痺で事切れた後とはいえ、ピストルは旗田氏に向けて発射されたんだからねえ。引金を引いた主は、旗田氏に対して或る感情を持っていたことになる。つまり、旗田氏の頭部へ弾丸を送り込んだということは、彼が一つの言葉を綴って残したことになるんだ。このことは君にも分るだろう」
「旗田氏を撃ったことが一つの言葉を現わしている――ということは分るがねえ……」
「それが分れば、ピストルがこの事件に重大な役割を持っていることが分るじゃないか」
「なるほど、それはそうだ。だが、一体それはどんな言葉を綴っているんだろう」
「綴っているのはどんな言葉か。それはこれから解きに掛るところだよ。そして重要な点は、あのピストルの引金を引いた主が、そのとき既に旗田氏が死んでいるのを知っていたか、それとも知らなかったのか、そこだと思うよ」
 帆村の言葉を聞いて土居は笑い出した。
「旗田氏が既に死んでいると分っていれば、御丁寧にピストルの引金を引くこともなかろうじゃないか。だから当人は、旗田氏が既に死んでいることを知らなかったに違いない」
「君は常識家として正しいことをいっている。しかしだね、引金を引くときには、狙
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