はい。ですけれど、旦那さまを殺したのはわたくしではありません……」
家政婦は検事のために、遂に袋小路に追込まれてしまった感がある。彼女は滂沱たる涙を押えて、声を放って泣き出した。
検事は当惑の顔で、家政婦を一時引下らせるように命じた。
巡査に護られて家政婦の小林が、広間から出ていくと、帆村が何を思ったかその後を追って廊下へ出た。
二三分経つと帆村は、元の広間へ戻って来た。そのとき広間では、誰も皆、煙草をぷかぷかふかして、すっかり緊張を解いていた。と、長谷戸検事が、帆村の方を振返っていった。
「今、本庁へそういって、土居三津子をここへ呼ぶように手配しました。土居がここへ来るまで、外にする仕事もないから、暫く取調べは中止します。解剖の方も、今やっているところでしょうから、この報告もずっと先のことになりましょうからねえ。あなたも、ちと散歩でもして来たらどうです」
帆村の余興
帆村は、検事に礼をいって、卓上に並んでいる茶呑茶碗を一つを[#「茶呑茶碗を一つを」はママ]取上げ、温い番茶を一口|啜《すす》った。
一座は大寺警部を中心に、トマトの栽培方法について、話に花を咲かせて
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