。というのは、旦那様は弟御さまを……」
と、そこまでいったとき、突然そこへ大声をあげて入って来た姿のいい紳士があった。
「やあお呼び下っていたのに、とんだ失礼を。すっかり寝坊をしてしまって、何から何まで申訳ないことばかり……僕が亀之介です。小林にはどうも評判のよろしくない人物です。どうぞよろしく」
彼はそういって、検事の前まで割りこんでいって、
「ああ、私はここで煙草を吸っていて、さしつかえありませんでしょうか」
と、葉巻をきざな恰好で指で摘んで、検察官たちをぐるぐるっと見渡したものである。
庶子何処
玉蜀黍《とうもろこし》の毛みたいな赤っぽい派手な背広に大きな躰を包んだ旗田亀之介だった。頭髪はポマードで綺麗になでつけてあるが、瞼も頬も腫れぼったく、血の気のない青い顔をしているのは、彼が相当の呑み助であることを語っている。時々胸のポケットから若い婦人が持つような柄のハンカチーフを取出して顔の下半分に当て、その中で変な声を立てる。昨夜来の痛飲でよほど胃の工合が変だと見える。
「煙草はお吸いになって居て結構です。どうぞ、そこへお掛け下さい。そしてお話を伺いましょう」
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