立上った。ポケットから長方形の缶を出し、その中へパイプを収《しま》った。
「大寺君」
「はあ」
 警部は、うれしそうに返事をして、検事の顔をみつめた。
「死因不明としておいて、その外にもっと調べることが残っているから、その方を先に片づけて行こうじゃないか」
「はあ」
 警部は当て外れがしたというような顔になって、
「私の方はもう殆んど全部、捜査を終ったんですが、検事さんの方でまだお検べになることがあればお手伝いいたします」
「それならば力を貸してもらいたいが……あの鼠の死骸だが、あれは君がこの邸へ来たときに既に死んでいたのかね」
 検事は大股で、部屋を横切って、洗面器のあるカーテンの方へ歩いていった。
「はあ。鼠でございますか……」
 大寺警部は狼狽の色を隠し切れなかった。そして検事の後を追いかけた。
 帆村は、検事と警部のために黙ってカーテンを明けてやった。
「ああ、鼠が死んでいる。検事さん。私はどぶ鼠など問題にしている暇がなかったんですが、やっぱり問題にすべきでしょうか」
 警部は弁明にどもりながら、ちらりと帆村へ険しい一瞥をなげつけた。
「そう。事件捜査に当る者は、一応現場附近に
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