解決がつかなかった。
 そこで次に、未詳の指紋の主の調べに入ったのであるが、これは案外楽に見つかった。井東参吉というのが、その指紋の主であったのだ。彼井東は、この工場の工員の一人であって、試験部附の缶詰係だった。つまりこの工場で、まだ売出し前の食料品を試験的に缶詰にする工程において、彼はそれの最後の仕事として、蓋をつけて周囲を熔接して缶詰に出来上らせる部署で働いていた。彼のところには、自動式ではなく手動式の缶詰器械があった。これは旧式のものだが、数の少い試験用缶詰をパックするには便利なものであった。
 井東は三十歳ばかりの、この工場では古顔の工員であった。彼には一つの気の毒な病気があった。麻薬中毒者なのであった。彼は取締のきびしい中をくぐって、麻薬を手に入れなければならない悩みを持っていた。そんなことから、彼は普通の製造工程のところから遠ざけられて、試験部で働いていたわけである。
 井東を調べたところが、はじめは仲々いわなかった。しかし取調べの途中で、彼が麻薬中毒者であることも分り、それから糸がほぐれていって、遂に彼が白状したところによると、問題の軽い缶詰は、旗田亀之介に頼まれて、彼井
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