人から聞くとは[#「聞くとは」はママ]新しいことではないですか」
「主人の死んでいた部屋には、内部から鍵を廻してあった。三津子君が殺したものなら、どうしてその密室から出るか。玄関にも、内側から錠を下ろしてあったのだよ」
「ここの窓から飛び下りられますよ。窓には鍵がかかっていなかった。二枚の合わせ硝子戸を寄せてあっただけですから」
 警部の毅然たる解答に、帆村がにんまりと笑った。
「待ちたまえ。窓枠にも窓下にも、三津子君の足跡も指の跡もなかった。たとえ若い婦人がいざという場合には、こんな高い窓から外へとび下りることが出来ると仮定してもだ。しかもその窓硝子を外から締め合わせたとなると、この婦人は女賊プロテアそっちのけの身軽だといわなければならない」
 これには大寺警部も、すぐに応える言葉を知らなかった。窓のところの証拠固めは彼がしたのであったから、今彼は自縄自縛の形になってしまったわけだ。
 検事は、それごらんといいたげな顔。
「甚ださし出がましいですが、それはこうも考えられますね」帆村が沈黙を破って、しずかに足をはこんで三津子の前へ出て来た。「つまりですね、まず旗田鶴彌氏に毒をのませる。
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