の力でもって、ぜひ当局者から聞いてくれたまえ」

   検証

 帆村は、検察委員に選任せられていたから、警戒の警官にことわって、邸内に入ることを許された。
 中へ入ってみると、帆村の馴染な顔がいくつもあった。その顔触によって、ここに詰めている主任が大寺警部だと知った。その大寺警部は、今しがたここに到着した長谷戸検事一行を案内して、事件を説明しているところだそうで、今すぐそれに参加せられるが便宜であろうとすすめた。帆村はそれに従った。
 検事一行は、被害者の居間に集っていた。この居間は、十四五坪ほどの洋間であった。立派な鼠色の絨毯が敷きつめてあり、中央の小|卓子《テーブル》のところには、更にその上に六畳敷きほどの、赤地に黒の模様のある小絨毯が重ねてあった。その小卓子と向きあった麻のカバーのついた安楽椅子の中に、当家の主人旗田鶴彌氏が、白い麻の上下の背広をきちんと着て、腰は深く椅子の中に埋め、上半身は前のめりになって額を小卓子の端へつけ、蝋細工の人形のように動かなくなっていた、卓上には、洋酒用の盃や、開いた缶詰や、古風な燭台や、灰皿に開かれたシガレット・ケースに燐寸《マッチ》などが乱雑に載っていた。だが、それらの品物は、一つも転がっていはしなかった。
「……そんなわけでして、どうもはっきりしないところもあるんですが」と大寺警部の有名な“訴える子守娘”のような異様な鋭い声がして「ともかくも、ここの戸口の扉には内側から鍵がさしこんだまま錠がかかっているのに対し、反対側の窓が半分開いて居りますうえに、今ごらんになりましたとおり、被害者の頸の後に弾丸が入っている。それならば、犯人は被害者の後方から発砲し、それからあの高窓にとびあがって逃げた――と考えてよろしいのではないかと思います。私の説明はこのくらいにしておきまして、後はどうぞ捜査指揮をおねがいいたします」
 そういって大寺警部は一礼した。
 検事一行は、静粛な聴問の姿勢を解いた。
「すると君は、容疑者一号の婦人が、その被害者を射殺した後、あの高窓へとびあがり、扉を開いて外へ逃げたというんだね」
 長谷戸検事の声だった。
「はあ。私はそう思いますが……」
「で、その容疑者一号は、ピストルを持っていたかね」
「いや、持って居りません。追及しましたが頑として答えません」
「ピストルで射殺したことは認めたかね」
「ピストルなんか
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