く安心して、皆のところへ戻ってきた。
 せまい機械台のうえが、とり片付けられ、一枚の白い布が敷かれていた。そこへ、オルガ姫が、酒の壜《びん》をもってきた。
「ああ、灘の生一本か。こんなところで、灘の酒がのめるなんて、夢のようだな」
 皆は、子供のようにうれしそうな顔をして、小さい盃にくみわけられた灘の酒をおしいただいた。
「ばんざーい、クロクロ島!」
 私はいった。
「ばんざい、黒馬博士のために……」
 と、久慈が、音頭をとった。
「ありがとう」
 と私はいって、
「――だが、この盃をもって、皆さんに対し、お別れの盃を兼ねさせていただきたい」
「なんだって」
 久慈が、おどろいて、私の顔をみた。
 私はここで、皆に、説明をしなければならなかった。
「実は、さっき、本国から、至急戻ってくるようにと、命令があったのだ。だから私は、お別れして、いそぎ東京へ戻らなければならない」
「ほんとうかね。われわれをからかっているのではないかね。クロクロ島の主人公が、ここを離れるなんて」
「いや、クロクロ島は、依然としてここにおいておく。久慈君に、後を頼んでおく。もちろん本国から君あてに、辞令が無電で届
前へ 次へ
全156ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング