拾い出したのであった。それを私の理想とする婦人像であったのだ。
 オルガ姫を見ていると、私は母の懐《ふところ》に抱かれているような安心を覚える。
 そのオルガ姫は、配電盤のところに立って、しきりに録音された鋼鉄のワイヤを調べていたが、私の方に向き直り、
「警報信号が、しきりに入っているのですけれど、発信者の名前もなく、それに、本文もないのですが」
 オルガ姫は、報告だけをすると、また配電盤の方へ向いて忙しそうに手をうごかした。
「発信者の名前もなく、また本文もない……」
 私は、それはきっと逃亡中の久慈が、自分の安泰を知らせているのだと解釈したのであった。
 久慈は、このクロクロ島へ逃げこんでくるかも知れない。いや、どうもそういう気がする。
 もし、ここへ逃げこんでくるとすると、彼の到着は、早くも明日の朝になるであろう。
 私は、オルガ姫に命じて、なおもその警報信号に注意を払わせることとし、もしも、なにか本文らしいものを相手がうってきたら、すぐさま私に知らせろといいつけた。
 そうして置いて私は、X大使の闖入《ちんにゅう》以来、あまりに疲れたので、しばし長椅子に横たわって睡眠をとること
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