思われるであろうが、決してへんないい方ではない。そのわけは、いずれだんだんと、おわかりになることであろう。
 さて私は今、そのクロクロ島のことについて、自慢らしく読者に吹聴《ふいちょう》しようというのではない。私が今、ぜひとも、ここに記しておかなければならないと思うのは、或る夜、島のアンテナに感じた奇怪きわまる放送についてである。
 その夜、私は例によって、只ひとり食事をすませると、古めかしい籐椅子《とういす》を、崖《がけ》のうえにうつした。
 海原《うなばら》を越えてくる涼風《りょうふう》は、熱っぽい膚《はだ》のうえを吹いて、寒いほどであった。仰《あお》げば、夜空は気持よく晴れわたり、南十字星は、ダイヤモンドのようにうつくしく輝いて、わが頭上にあった。
 私は、いささかわびしい気もちであった。
 その気もちを、ぶち破ったのは、オルガ姫の疳高《かんだか》い悲鳴だった。
「あッ、大変、大変よ」
 疳高い叫び声と同時にオルガ姫は、とぶように駈けてきた。
「どうした、オルガ姫!」
「怪放送がきこえていますのよ。六万|MC《エムシー》のところなんですの」
 姫は流暢《りゅうちょう》な日本語で、
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