士の報告である。
 西暦一九九九年といえば、今から約三十年後のことである。果してわが地球は、そのころ、左様《さよう》な異変を起すであろうか。もしそのような異変を起すものとせば、その原因は、如何なることであろうか。
 金星のブブ博士でなくとも、われわれこの地球に棲んでいる者として、たいへん気になることである。もしやそれは、例の大陰謀《だいいんぼう》……」
 というところで、放送者の声は、惜しくもまた空電に遮《さえぎ》られてしまった。その後は、ついに、聴くことができないでしまった。空電が消えたときには、その怪放送も、空間から消えていた。


   汎米連邦《はんべいれんぽう》――いよいよ第三次世界大戦か?


「お化け地球事件」をつたえた怪放送の謎!
 私は、只ひとり苛々し、呻吟《しんぎん》した。
 その怪放送者は、何処の何者であるかわからないが、たしかに、この地球のうえの、どこかに棲んでいる者にちがいない。彼は、どうして、その「お化け地球事件」のことを知ったのであろうか。
 いや、それは兎《と》も角《かく》としても、もしその放送が、真実をつたえているものであるとしたら、地球は、今から三十年後に、たいへんな変り方をするわけである。
 なぜ、そんなことが起るのであろうか。なぜ地球は、そんな風に化けるのであろうか。
 これを報告したのは、金星のブブ博士であるという。博士は、三十年後に、地球の表面にあのような変化がおこることを予言したのである。
 いや、予言ではない。博士は三十年後の、そのお化け地球を、はっきり見たというのである。
 電信の文句の始めが、空電のため、邪魔をされて、文意がはっきりしないが、兎に角、三十年後のことがよく分る器械があるらしい。
 察するところ、それは、ウェルズという科学小説家が空想したことのある「時間器械」というような種類のものであるかもしれない。これは油断《ゆだん》のならぬ世の中になったものである。
 私は、こうして考えているうちに、なんだかその怪放送者が、私の敵であるように思われて仕方がなかった。
 つまり、その怪放送者は、自分のところにある「時間器械」らしいものを、ひけらかせ、そのうえ、われわれが現にこうして棲んでいる地球が、三十年後には、不思議なる変り方をするんだぞと、われわれを嚇《おど》しているのだ。
 全く、夢のようにふしぎな話だ。「三十年先が分る器械」のことにしろ、「お化け地球」のことにしろ、どっちも、われわれの想像を越えた話である。
 そういう話をもちだして放送するとは、われわれを嚇すことを目当てにやったものに、ちがいない。いよいよ油断ならないのは、その怪放送者である。
 私は、沈思黙考《ちんしもくこう》すること一時間あまり、ついに肚《はら》をきめるに至った。
(よオし、たとえいかなる犠牲を払おうとも、怪放送者の正体をつきとめないではおかないぞ!)
 私は、オルガ姫に命じて、再び怪放送を自動的に受信する装置を、仕掛けておくように命じた。
 それがすむと、私は、自ら秘密中継送信機の前に立ってまず真空管に火を点じた。
 その大きな硝子球《ガラスきゅう》は、器械囲いの中で、ぼーっと明るくなった。異状なしである。私は、送信機全体に、スイッチを入れた。そして、マイクを手にとったのである。
「やあ、久慈《くじ》君か。こっちは私だが、なにか変った話はないか」
「おお、お待ち申していました。たいへんなことを、聞きこんだのです。いよいよ汎米連邦《はんべいれんぽう》は戦争を決意したそうです。連邦の最高委員長ワイベルト大統領は、今から一時間ほど前に、極秘のうちに、動員令に署名を終ったそうです」
「そうか。とうとう、開戦か」
「そうです。またまた世界戦争にまで発展することは、火をみるより明らかです。ああ、今度はじまれば、実に第三次の世界大戦ですからね」
 と、久慈のこえは、興奮のあまり、慄《ふる》えを帯びている。
「一体、汎米連邦には、一切の戦備ができ上っているのかね」
 と、私はたずねた。
「もちろんですとも。この二十幾年、汎米連邦は、ばかばかしいほど大仕掛けの戦備をととのえているのです。
 近来《きんらい》汎米人以外のいかなる外国人も、入国を許可しませんから従って、どんなに大仕掛けの戦備ができているか、あまり外へは、洩《も》れないのです。しかし、こうして、国内に居る者には、たえず目にふれています。全くばかばかしいの一語につきますよ。
 旧北米合衆国のワシントン州のごときは州全体が、一つの要塞のように見えるのです。欧弗同盟《おうふつどうめい》国にとっては、相当手強い敵ですよ」
 大西洋をはさんで、東に欧弗同盟国、西に汎米連邦――この二つの国家群は、二十余年以来睨み合いをつづけているのであった。
「そうか。今度は、いよ
前へ 次へ
全39ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング