、突如として、怪影を認めた。
「ああ、潜水艦だ!」
潜水艦が一隻、こっちへやってくる。正しくそれは、米連艦隊に属する潜水艦である。それは多分、クロクロ島の最期をたしかめに来たのであろう。いや、クロクロ島の正体を、調べに来たのかもしれない。これは、たいへんである。折角作りあげた秘密艦クロクロ島のことを、知られてしまってなるものか。
「よし、あの潜水艦を、このまま帰さないことにしよう」
私は咄嗟《とっさ》の間に、決戦の覚悟をきめた。折柄、クロクロ島の沈没しているあたりは、煙のような乾泥がたちこめ、咫尺《しせき》を弁じなかった。私はその暗黒海底を巧みに利用して、その物陰から、敵の潜水艦に向って、一発の水中榴弾を撃ちだしたのであった。命中するか、それとも外れるか。もし外れるようなことがあれば、敵に勘づかれて、私は非常な不利な状態に落ちこまなければならない。私は、水中榴弾《すいちゅうりゅうだん》の炸裂するのを、じっと待った。
舵器損傷《だきそんしょう》!――本艇は沈下しつつあります
じじじン、じじじン
水中を、爆発音が波動してきた。敵の潜水艦の艦橋付近に、見事に命中したのだ。アンテナが吹き飛ばされるところが、まるで蝦《えび》が触角をふりたてているように見えた。
つづいてもう一発!
今度は、敵潜水艦の水中聴音器の振動板に、気持よく命中した。潜水艦は、もちあげられた。そしてくるっと腹を上にして、一回転した。夥《おびただ》しい泡が、艦内からぶくぶくと浮きあがるのが見える。
「おお、うまくいったぞ」
私は思わず大きい声をあげた。まずこれでクロクロ島の仇討を、見事一本、とったつもりであった。
最初にアンテナを狙い、次に水中聴音器を壊す。こうすれば、この潜水艦は、急を艦隊に告げる遑《いとま》もなにもありはしないのだ。
そこで私は、ちょっと気をゆるませた。自分でも、その際、無理もないことであったと思うが、それがいけなかった。いつの間にか、わが魚雷型潜水艇の背後に、敵の別な潜水艦が忍びよっていたことには、気がつかなかったのである。小型だけに、多種のいい光学兵器をつみこめないのが、この潜水艦の欠点であると思っていたが、その欠点が、ここに破綻《はたん》を生じたのである。
「舵器が、壊れました!」
と、オルガ姫が叫ぶのと、艇が今にもばらばらに壊れるのではないかと思
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