した。
 それから間もなく、海水の色がかわり、潮の流れがまるで違ってきた。
 雲霞のごとき、魚群を、いくたびとなく蹴散らしながら、全速力をつづけること小一時間、
「三角暗礁が見えます」
 と、オルガ姫が知らせた。
 望遠鏡の向きをぐっと変えると、なるほど前方に、大きな氷柱《ひょうちゅう》を逆さにして立てたような、怪奇な姿をした三角暗礁が見えてきた。
 暗礁の頂上が、磨ぎすましたように、三角の稜《りょう》をつくって、上を向いているのであった。それで、三角暗礁の名があった。
 付近には、妙な渦がまいていて、船舶は、魔の海として近づかない。ただ魚だけは、絶好の游泳場として、寄ってくる。
 三角暗礁は、だんだん大きく見えてきた。
 暗礁の中腹に横に抜ける一つの大きな洞穴がある。これは、わが潜水艦隊が、技師たちを連れていって穴をあけたものである。この洞が、安全な着船場となっていたのである。
「洞穴《どうけつ》に、艇《ふね》をつけろ」
 私は、命令をした。
 オルガ姫は、速い潮流に流されそうになる艇を、巧みに操縦して、暗礁のまわりを、二、三度ぐるぐる円を描いて廻っていたが、やがて、艇は吸い込まれるように洞穴の中へ入った。
 洞穴の中は、真暗であった。
 昼寝をしていた魚が、びっくりして、中から飛び出してきた。
 洞穴は、奥行が、二百メートルばかりもあって、奥はなかなか広くなっている。そこまで入っていくと、自然に継電気《けいでんき》が働いて、洞穴の天井に電灯が点くようになっている。
 艇《ふね》がこの洞穴の広間へ、舳《へさき》を突込んだとき、果して、ぱっと点灯した。そして、そこに、怪奇をきわめた広間の有様が、人の眼を奪う。
 天井は高く、五十メートルばかりもある。
 四囲の岩壁は、青味をおびた黒色をしていて、そのうえに、苔《こけ》や海草が生え、艇が水を動かすものだから、ゆらゆらと揺れる。
 この洞穴は、向うへも抜けられるようになっているが、洞内の海水は澱《よど》んでいて、ほとんど流れがない。
 岩壁には、太いパイプに、蓋をかぶせたようなものが、あちらこちら合計して六つほども、飛び出している。大きいのもあれば、小さいのもある。これは、岩礁の中にある部屋部屋への耐水入口である。
 オルガ姫は、巧みに、艇をこのパイプへ寄せた。
 艇は胴中から、同じようなパイプが、くりだされる。そして、
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