は重傷を負った。犯人は、その場で逮捕せられたが、彼等は将軍の民族強圧に反対するアラビア人であった。今後、同国内におけるこの種の示威運動は、活溌になるであろうと識者は見ている”
“――汎米連邦における敵国スパイの跳梁《ちょうりょう》は、いよいよ甚《はなは》だしきものがあり、殊に昨日は、ワシントン市と南米方面とは互いに連絡をもつスパイの通信が受信せられ、警備隊は、これの検挙に出動した。ワシントン市におけるスパイの巣窟《そうくつ》はついに壊滅《かいめつ》し、スパイの大半は捕縛《ほばく》せられ、その一部は、自殺または逃走した。南米方面のスパイに対しては、厳重な包囲陣が敷かれて居り、彼等の検挙はもはや時間の問題である”
 こうした録音は、いずれも汎米連邦側のものばかりであった。
 これに対して、欧弗同盟側では、殆んど、何にも放送していないのが、甚だ奇妙な対照をなしていた。
 只一つ、最後に欧弗同盟側の簡単な放送があった。
“――元首ビスマーク将軍は、今、寝所に入ったばかりである。元首は一昨日以来、ベルリンにおいて閲兵《えっぺい》と議会への臨席とで寸暇もなく活動している。因《ちな》みに、ベルリン市には、数年前から一人のアラビア人もいない”
 この放送は、明らかに、ワシントン特電がデマ放送であることを指摘し、反駁《はんばく》しているものであった。その外《ほか》のことについては、ベルリン特電は、なにもいっていないし、欧弗同盟のいずこの地点よりも、一つの放送さえなかった。それは、非常にりっぱに統制が保たれているというか、或いは開戦にあたって、作戦の機密を洩《もら》させまいと努力しているのだというか、とにかく林の如く静かであることが、汎米連邦側にはすこぶる気味のわるいものであった。
 汎米連邦と欧弗同盟国との戦闘は、あと数日を出でないで、開始されるであろうと思われた。
「落下傘が六個、下りてきます! 頭上、千五百メートル付近を、下降中!」
 とつぜん、オルガ姫の声であった。
 私は、空を仰いだ。
 ああ、見える見える。灰色の爆弾のようなものが、ぐんぐん下におちてくる。もっとスピードが速ければ、爆弾と間違えたかもしれない。
 落下傘は、主傘《しゅさん》を開いていない。小さい副傘を、ぽつんぽつんと、開きながら、まだ相当のスピードで落ちてくるのが分った。
 主傘がぱっと、開いたのは、高度二百
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