しは、君に代ってこのクロクロ島の実権を握っているようなものだ」
「こいつ、いったな」
「何をいおうと、わしの勝手だ。わしは、わしの欲することを、全部意のままにやるだけのことだ。しかし黒馬博士、わしはまだこのクロクロ島は、ほんの一目見ただけだが、人間|業《わざ》としては、なかなか出来すぎたものだね」
 X大使は、お世辞《せじ》のつもりか、クロクロ島のことをほめあげた。私は、いいがたい口惜《くや》しさに黙りこくってただ唇を噛んだ。
「いずれ、クロクロ島の内部は、ゆるゆる拝見するとして、その前に、君に一つ意見を聞いておきたいことがあるんだが、答えてくれるだろうね」
 X大使の態度は、俄《にわ》かに妥協的《だきょうてき》になってきた。
「答えるかどうかしらんが、早く、それをいってみたまえ」
「うん、いおう。このたび、いよいよ地球の上に捲き起ることとなった第三次世界大戦は、どういう目的とするかね」
 X大使は、ふしぎな話題をとらえて、私に質問を発したのである。私はX大使が普通のテロ行為者《こういしゃ》とはちがって私の生命を断《た》とうとしているのではない様子にほっと胸をなでおろした。
「そんなことは常識の範囲で、誰でも知っていることだ。それはつまり、資源問題だ。汎米連邦《はんべいれんぽう》にしろ欧弗同盟《おうふつどうめい》国にしろ、自己の領土内の資源では足りないから、足りない資源を得るため相手国を攻略しようというのだ。こんなことは、私に聞くまでもない話だ」
 と私は、極《きわ》めて平明にのべた。
「ふむ、やっぱりそうか」
 と、X大使は声だけで肯き、
「そこで次の質問になるが、第三次世界大戦の結果、仮りに汎米連邦が欧弗同盟国を征服してヨーロッパとアフリカを自分の手におさめたとする。さて、そうしたことによって、この資源不足問題は、解決するだろうか。君はどう思う?」
 X大使の質問は、この方が本題だったらしい。事実私は、この質問には、答えることをちょっと躊躇《ちゅうちょ》しないわけに行かなかったが、さりとて答えないでいることは、相手に軽蔑《けいべつ》され、こっちの弱みになることだと思ったので、私はついにいった。
「そりゃ、解決するさ。勝者と敗者とができて、勝者は敗者のもっていた資源を利用する」
「あははは、そんな子供だましの答は御免《ごめん》蒙《こうむ》る。なるほど、一応解決する
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