れそうに、がんがん鳴りだしたのであった。私は、自信を一度に失ってしまった。
「あっ、苦しい」
 私は、オルガ姫を呼ぼうとして、うしろをふりかえった。
「あっ、姫!」
 配電盤の前に立っている筈のオルガ姫が、床のうえに、長くなって倒れている。
 姫は、いつの間に倒れたのであろう。見ると、姫の首が肩のところから放れて、ころころと私の足許に転がっている。さすがの私も、嘆きのあまり腰をぬかしてしまった。
 一体、どうしたというのだろうか。そのとき、階段に、ことんことんと足音が聞えた。私とオルガ姫との二人の外に、誰もいない筈《はず》の艦内に、とつぜん聞える足音の主は、一体何者ぞ!


   意外なる闖入者《ちんにゅうしゃ》――触覚《しょくかく》をもった謎の男


 私は、夢を見ているのではなかろうかと疑った。
 至極《しごく》古い方法であるが、私は、震《ふる》える指先で自分の頬をつねった。
(痛い!)
 痛ければ、これは夢ではない。いや、そんなことを試みてみないでも、これが夢でないことは、よく分っていたのだ。
 夢でないとすれば――近づくあの足音の主は、誰であろうか?
 絶対|不可侵《ふかしん》を誇っていたクロクロ島に、私の予期しなかった人物が、いつの間にか潜入していたとは、全くおどろいたことである。そんな筈はないのだが……。
 だが、足音は、ゆっくりゆっくり、階段を下りてくる。私の体は、昂奮のため、火のように熱くなった。
 こっとン、こっとン、こっとン!
 ついに、階段下で、その足音は停った。
 ついで、扉《ドア》のハンドルが、ぐるっと廻った。
(いよいよ、この室へはいってくるぞ!)
 何者かしらないが、はいって来られてはたまらない。私は、扉を内側から抑えようと思って立ち上ろうとした。
 だが私は、体の自由を失っていた。
 上半身を起そうと思って、床を両手で突っ張ったが、私の肩は、床の上に癒着《ゆちゃく》せられたように動かなかった。
「畜生!」
 私は思わずうめいた。うめいても、所詮《しょせん》、だめなものはだめであった。
「あまり、無理なことをしないがいいよ」
 とつぜん私の頭の上で、太い声がした。
(あっ、彼奴《あいつ》の声だ。怪しい闖入者《ちんにゅうしゃ》の声だ!)
 私は歯をくいしばった。
「無理をしないがいいというのに、君は、分らん男だなあ」
 闖入者は、腹立たし
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