早口に喋る。
「六万MC、するとこの間も、ちょっと聴《きこ》えた怪放送だね。――録音器は、廻っているだろうね」
「ええ、始めから廻っています」
「ああ、よろしい。では、五分ほどたって、そっちへいく」
 姫は、にっこりとうなずいて、地下室へつづく階段の下り口の方へ、戻っていった。
 六万MCの怪放送!
 この怪放送をうまくとらえたのは、これで二度目だ。前回は、惜しくも目盛盤《めもりばん》を合わせているうちに、消え去った。いずれそのうちまた放送されるものと思い、このたびは、自動調整に直しておき怪放送が入ると同時に、オルガ姫が活躍するようにしておいたのである。
 さて今夜は、録音器が、どんな放送を捕えたであろうか。
 私は、階段を下りていった。
 オルガ姫は、録音テープを捲きとって、発声装置にかけているところであった。
 私は、すぐ始めるように命じた。
 モートルが動きだすと、壁の中にはめこんだ高声器から声がとびだした。
「――器械が捕えたものであって、時は西暦一九九九年九月九日十九標準時、発信者は、金星に棲《す》むブブ博士……」
 そこまでは、明瞭《めいりょう》にきき取れたが、そのあとが、空電《くうでん》とおぼしきはげしい雑音のため、全く意味がとれなくなってしまった。私は、舌打をせずにいられなかった。
 しかし聴取不能《ちょうしゅふのう》の時間は、わずか三十秒で終り、それから先は、またはっきり聴《きこ》えだした。
「……ところが、昨夜《ゆうべ》の観測によると、地球の表面は一変してしまった。なによりも驚かされたことは、陸地の形がすっかり違ってしまったことである。
 地球に特有な逆三角形の陸地の形は、どこにも見られなくなり、それから、こまかな海岸線も全く消失し、只有るのは、掴《つかま》えどころのない、のっぺりした曲線で区切られた海岸線が見えるだけである。ことに、記憶すべきは、陸地の面積が、わが金星から見える範囲内でも、約五分の一消失してしまった。
 まことにふしぎな地球の異変現象であるといわなければならない。この現象を、一括して吾れブブ博士の感じをいいあらわすならば、地球は、この三十年の間を、化けてしまった。すなわち『お化《ば》け地球事件』と呼びたい。
 なぜ、地球はかくもふしぎな化け方をしたのであろうか。それは今後の研究に俟《ま》って、明らかになるであろう――これがブブ博
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