地球要塞
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)お化《ば》け
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)六万|MC《エムシー》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)安全※[#「合/廾」、第3水準1−84−19]《あんぜんえん》
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怪放送――お化《ば》け地球事件とは?
西暦一九七〇年の夏――
折から私は、助手のオルガ姫をつれて、絶海《ぜっかい》の孤島《ことう》クロクロ島にいた。
クロクロ島――というのは、いくら地図をさがしても、決して見つからないであろう。
クロクロ島の名を知っている者は、この広い世界中に、まず五人といないであろう。クロクロ島は、その当時、西経《せいけい》三十三度、南緯《なんい》三十一度のところに、静かに横たわっていた。
そこは、地図のうえでみて、ざっと、南米ブラジルの首都リオを、南東へ一千三百キロほどいったところだった。
「その当時……横たわっていた」といういい方は、どうもへんないい方だ、と読者は思われるであろうが、決してへんないい方ではない。そのわけは、いずれだんだんと、おわかりになることであろう。
さて私は今、そのクロクロ島のことについて、自慢らしく読者に吹聴《ふいちょう》しようというのではない。私が今、ぜひとも、ここに記しておかなければならないと思うのは、或る夜、島のアンテナに感じた奇怪きわまる放送についてである。
その夜、私は例によって、只ひとり食事をすませると、古めかしい籐椅子《とういす》を、崖《がけ》のうえにうつした。
海原《うなばら》を越えてくる涼風《りょうふう》は、熱っぽい膚《はだ》のうえを吹いて、寒いほどであった。仰《あお》げば、夜空は気持よく晴れわたり、南十字星は、ダイヤモンドのようにうつくしく輝いて、わが頭上にあった。
私は、いささかわびしい気もちであった。
その気もちを、ぶち破ったのは、オルガ姫の疳高《かんだか》い悲鳴だった。
「あッ、大変、大変よ」
疳高い叫び声と同時にオルガ姫は、とぶように駈けてきた。
「どうした、オルガ姫!」
「怪放送がきこえていますのよ。六万|MC《エムシー》のところなんですの」
姫は流暢《りゅうちょう》な日本語で、
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