水平方向は一万メートル以上は、指度《しど》があやしいのです」
「そうか。じゃ、引続き測量を行え。――司令、お聞きのとおりです。一向《いっこう》予期した海底異状がないそうであります」
と、先任参謀が、情けなさそうなこえを出した。
私は、深度計を見た。
深度計の指針は、ずっと右に傾いて、深度三十一メートル!
「ふふふ、この辺の海底は、三十メートル内外で、殆んど平らであります――か。なるほど、そのような報告では、お気の毒ながら、宝探しは無駄骨《むだぼね》だろうよ。ははは」
私は、腹の底から、笑いがこみ上げてきた。オルガ姫は笑いもせず、あいかわらず、黙々として、配電盤の前に立っていた。
吸音器からは、また話ごえが洩れていた。
「司令、予定された地点は、もう後になってしまいました。そうです、只今、一キロばかり、行き過ぎました」
「そうか。やっぱり駄目か」
と、今度は、司令が、元気のないこえを出した。
「僚艦《りょうかん》からも、かくべつ、ちがった報告はないんだね」
「そうであります。本艦と全く同様の結果を得ております」
「方向探知局の測定に誤差《ごさ》があったのかな。今まで、そんなへま[#「へま」に傍点]をやったことはないのだがねえ」
「測定の誤差というよりも、測定方法がいけないのじゃないか」
「そんな筈はないのですが……たしかに、こっちの専門家が、苦心して三つの中継局を探しだし、確信のうえに立っているといわれたものですが……」
「とにかく、もう一度、連合艦隊|旗艦《きかん》へ連絡をとってみることにしよう。旗艦を呼び出したまえ」
「は」
それから、小一時間も、哨戒艦隊は、なおも、そのあたりをうろうろしていたようである。だが、私は、彼等の会話を、盗聴《とうちょう》して、これなれば、こっちは安全であるとの自信を高め得た。
なぜなれば、その付近の海底を、いくら探してみても、海底から、とび出したものなどは、発見されないのであった。もちろん、海面を見わたしたところで、クロクロ島の姿が見えるわけのものでもなかった。わがクロクロ島は、完全に、彼等の感覚の外にあったのである。
――というと、まるで魔法使いの杖の下に、かき消すように消えてしまった兎《うさぎ》のように思われるであろうが、そのような、いかさま現象ではない。わがクロクロ島は、ちゃんと現存しているのであった。私が、こ
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