由は、実に、わが地球が、地球外の強力なる敵より、襲撃せらるる徴候《ちょうこう》見えしによる」
「地球外の敵? はてな、ではその敵というのは、あのX大使のことではあるまいか。オルガ姫、早く、その先を読め」
「――地球外の敵とは、実に、かの金星に住む超人《ちょうじん》のことなり。金星超人は、わが地球人類よりも、はるかに高度の文化を有す。その証拠の一をあぐれば、かれ金星超人は、四次元振動を発生するの技術を心得おりて、その怪振動を利用し、自己の姿を透明にし、いかなる鉄壁なりといえども、自由に侵入し来ること之なり。ああ、金星超人こそ、正に現代の恐怖の生物、宇宙の喰人種《しょくじんしゅ》というも過言《かごん》にあらざるなり」
「ああ、四次元振動か。なるほど、四次元振動で、海が見えなくなったり、鉄扉《てっぴ》を透して侵入したり、ふしぎなことをして、私を愕かしたのか。すると、X大使というのは、金星超人だったというわけだな。ほう、おそろしいことだ!」
 私は、急に、はげしい戦慄《せんりつ》に襲われた。目の前が、まっくらになったように感じた。


   怪! 四次元振動《よじげんしんどう》――博士の勲功《くんこう》


 オルガ姫の解読《かいどく》はつづく。
「――故《ゆえ》に、わが日本は、急ぎ金星に対して、防禦手段《ぼうぎょしゅだん》を講ずるの必要に迫られたるものにして、強烈なる磁力と、混迷せる電波とをもって巧みなる空間|迷彩《めいさい》を施し、その迷彩下において、極秘の要塞化をなしたるものにして、今やわが日本は、空中より見るも、その所在を明らかにせず、また水中よりうかがうも、その地形を察知すること能わず、もし強《し》いて四次元振動をもって、ベトンに穿孔《せんこう》せんとすれば、侵入者は反《かえ》って激烈なる反撥をうけ、遂には侵入者の身体は自爆粉砕すべし。かくして、今や日本は、金星超人の襲来を恐れず、日本要塞は完成したるなり」
「ふうん、そうだったか。日本全体が、一つの要塞となったわけだな。オルガ姫、それからどうした?」
「――さりながら、黒馬博士に対して、余《よ》、鬼塚元帥は、そぞろ同情を禁じ得ざるものなり。以上述べたるところにより明らかなる如く、日本要塞は、外部より何者といえども、絶対に侵入するを許さざる建前《たてまえ》により、戒厳令中《かいげんれいちゅう》は、たとえ黒馬博士なり
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