になって四散し、天へ昇っていきましたからね。だからあれは海中で原子爆弾の攻撃を食ったのに違いありませんよ。ゼムリヤ号の場合はそれとは違うと思われる。だから両者は別物ですよ」
 ホーテンスはここで言葉を停めて、博士の顔色を窺った。博士はちょっと眉の間に皺《しわ》をこしらえただけで、何ともいわなかった。
「僕は同じ原因から起こったことだと思いますがね」
 水戸記者の声だった。ホーテンスはふり返って水戸を認めると、笑いながらもっと前へ出て喋れと合図をした。水戸記者はホーテンスと反対の意見だが、何を考えているのであろうか。

  博士の冒険計画

「水戸君の説は、どうなんだ」
 ワーナー博士はパイプに新しい煙草を詰めながら、東洋の記者の面に一瞥《いちべつ》を送った。
「毎度のことながら、僕の説には、はっきりとした證拠の裏附けがないのが遺憾です」
 と水戸は本当に残念そうな顔をした。
「が、二つの事件は同一手段によったとしか考えられません。もちろんさっきの事件も、原子爆弾によるものとは思われない」
「なぜ原子爆弾でないというのかね」
「ホーテンス君。君だってその点については充分疑問を持っているのではないかね。もしあれが原子爆弾だとしたら、いくら水中での爆発にしろ、あの駆逐艦D十五号だけがあんなにひどく損傷して粉砕したばかりか全部が気化してしまうことはないだろう、恐ろしい力だ。それにも拘《かかわ》らず僕が乗っているこのサンキス号を始め、僚艦は大した損傷を蒙っていないではないか。だからさっきのを原子爆弾と見ることは正しくないと思うのだ」
 水戸はここでちょっと言葉を停めて、博士の顔を見た。博士は軽く肯いてみせた。
「そうはいったが、ゼムリヤ号の被害状況と駆逐艦D十五号のそれとは非常に異なっている。本事件の怪力の攻撃を受けてD十五号があのとおり粉砕気化するものなら、なぜゼムリヤ号は粉砕気化しなかったのか。明らかに二つの事件には相違がある。これが僕の同一原因説なんだよ、水戸君。だからこそ僕は新しい原因説を出した」
 ホーテンスは熱心に水戸を見詰める。
「ところがねホーテンス君。これは博士に笑われると思うが僕は一つの仮定を置いたのだ。その結果、二つの事件に同一原因説を敢えて圧しつけているわけだが、つまりこうなんだ、その仮定というのは――」
「ふう」
「……同一原因による力が働いたんだが、その原因物と被害物体との距離にかなりの相違があったため、その結果である損傷程度に著しい相違を生じた――こう考えてはどうだろうか。つまりゼムリヤ号事件のときはその怪力源が相当遠くにあった。しかし駆逐艦D十五号の場合はずっと近くにあった。そう考えることはいけないだろうか」
 水戸の説は大胆極まるものであった。そうしてここに論ぜられたもの以外にも多くの欠点を有していた。しかし彼は敢えて同一原因説を唱え、そして一見無理と思われる解釈を試みたのだった。なぜ彼はそんな無理を強行するのであろうか。
「君の説は興味深い」
 ワーナー博士が突然口を開いたので、その周囲に集まっていた人々は愕いた。まさかそんな讃辞が博士より聞けようとは期待していなかったからである。だが水戸はひとり、恥《はずか》しそうに静かに微笑した。
「博士は水戸の説に賛成なさるんですか」
 ホーテンスは訊《き》いた。
「まだ賛成はしておらぬ」と博士は明らかに否定し「だが今の水戸の説により、わしは一つのヒントによって、わしは最近の機会に一つの冒険を決行するよ」
「冒険ですって」
 ホーテンスを始め皆は愕いた。水戸も愕いた一人だった。
「そうだ、冒険だ、わしは準備の出来次第、その冒険を決行するつもりだ、何しろプログラムに全然なかったことを、水戸君から得たヒントで行くんだから、少々手数がかかる」
「先生その冒険というのは、どんなことですか」
 ドレゴが沈黙を破って、前へ乗出した。[#「。」は底本では「、」42−下段−6]
「左様《さよう》、その冒険というのは外でもない、わしは、今後の事情がそれを許すなら、潜水服を着て、あの海底地震帯へ下りてみようと思う」
「えっ、海底へ博士が御自身であの潜水服を着て下りられるというんですか」
 水戸が顔を赤くして叫んだ。
「それは乱暴ですね、先生やめて下さい」
 助手たちが口を揃えて反対した。もしも博士がそんなことを本当に実行し海底を歩いているとき、第三の怪事件が起こったらどうなるであろうか。とんでもないことだ。
 だが博士は思い停るとはいわなかった。
「それが近道だと思うからだ。海底へ下りてみれば何もかも分かるかも知れない」
「しかし先生、そんな危険なことをどうしてなさるのですか」
「危険は、海上にいても出会うだろう。海底が危険なら、それと同様に海上もまた危険だよ。……とにかくわしは近
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