な態度で取扱わねばならぬ問題だが、とにかく巨大なる外力が働いたことは確かであるし、それは海において発生したものであること……」
「それは原子爆弾にやられたんですか」
「そこが、その微妙なところで……実はこういう話があるんだが……」
その先をいいかけたとき、飛行場のサービス嬢が、旅客機の修理が終ってすぐ出発しますから、すぐ乗っていただきますと觸《ふ》れて来たので、ケノフスキーは周章《あわ》ててドレゴの方へ手を振って、飛行機の方へ駆け出した。
「ケノフスキーさん。貴方は何の用でどこへ行くんですか」
ケノフスキーは答えるかわりに手を振った。
「いつ帰って来ますか」
「後で詳しく手紙にして送る。さよなら。さよなら」
彼は軽金属の階段を登り切って、旅客機の中へ姿を消した。もうどうしようもなかった。
飛行機の出発を見送ってから、ドレゴは柵の外に乗り捨ててあった自家用車へ戻ってきた。
「どう、うまくいって」
もうどこかへ行ってしまったかと思ったエミリーが、辛抱強く運転席の隣に座って待っていた。
「エミリー、ありがとう。かなりの収穫があったよ、が、時間が切れて話は胴中から尻方の方だけが残った恰好だ」
「ぼんやりしているのね、あの人だったら抜け目なく頭まで手にいれるんだけれど」
「水戸のことをいっているんだね」
とドレゴは苦笑しながら、車をスタートさせた。
「僕は君の気持ちを知らなかったもんだから、彼を大西洋に置いてきたんだ、一体君はいつ頃から水戸を愛していたんだね」
「もう古いことよ。水戸がうちへ下宿するようになって間もなくだわ」
エミリー牝牛嬢には似合わない細い溜息をついた。
「これは愕いた。水戸はちっともそんな気配を見せなかったのでね」
「あら、ドレゴさん。早合点しないでよ。あたし達の間はまだ何でもないし、第一水戸さんはご存じないのよ」
「へえ、そうかね」とドレゴは大袈裟《おおげさ》に愕いてみせて
「わが可憐なるエミリー嬢が見掛けとはおよそ似つかぬ清純たる恋に悩んでおられるとは、さっぱり気がつかなかったね」
「おおきにお世話よ、鈍感坊ちゃん」
「これはお言葉、痛み入る。しかしエミリー、実をいえば僕も水戸をひとり残して来たのをたいへん後悔しているんだがね」
「あたしも変に胸さわぎがするのよ。あっちで何か間違いでもあったんじゃないかしら」
二人の心配は果たして杞憂《
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