もならぬからといって、飛行機を下りた。二人は、飛行場のまん中で、寒風に吹き曝《さら》されながら立ち話を始めた。
 取引の契約が調《ととの》ったあとで、ケノフスキーは次のような要旨を含んだ話をドレゴに聞かせた。
「わしはヤクーツク造船所の一代理人だが、原子爆弾防衛委員でもなければ、アイスランド海域の監視人だなんて、それは嘘ですよ。しかしゼムリヤ号のことについては相当承知していますよ。あれは優秀砕氷船です。だがそれ以上の目的を持った試作船でさ。もうお察しでしょうが、あの船は、外部からの極めて大きな圧力に耐えるように、そして熱線を完全に防ぎ、それから放射性物質の浸透を或る程度食いとめるように設計されてある、つまり結局、原子爆弾の恐るべき破壊力[#「破壊力」は底本では「破壤力」、54−下段−23]にも耐えられるだけのことが考えられてあるんでさ。こういう船を作っちゃいかんというわけはないですからね。いや、それよりも全人類が原子爆弾の脅威に曝らされている今日、われわれ人類は生存の安全のため一日も早く、あの脅威を防ぎ留める工夫をしなければならぬことは当然のことです。その対策としては、われわれが全く地底に隠れるのも一方法だが、しかしそれでは移動性に欠け、所要の交通や貿易ができなくなるわけだ。それじゃ困るですからな」
「航空機に耐力を持たせることも、今のところ不可能です。あれはマッチ箱みたいなものですからね。結局船である。水の上にふんわりと浮かんでいる船なら、伸縮があっても大丈夫、吹き飛ばされようが広い海の上なら大したことはない。陸の上じゃそうはいかん。結局船がいいということになるが、わがヤクーツク造船所では、マルト大学造船科にその設計を依囑《いしょく》したところ従来の造船工学にはアイデアのなかった顕著に伸縮性のある船を考え出してくれたのです。そしてそれは試作船として一先《ひとま》ず成功をおさめたといえる。君も見て知っているでしょう。あの山頂に叩きつけられたゼムリヤ号が、ほとんど外形を損じていなかったことを!」

  牝牛嬢の恋

 ケノフスキーは、自分のいっていることに段々熱して来て、果てはドレゴの外套の襟を掴まんばかりの手つきで、
「ね、分るだろう。だからゼムリヤ号を世の中へ送ったわがヤクーツク造船所は、救世主の一人なんだ。ヤクーツク造船所はこの偉大なるゼ号型船をわが本国だけに独
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