愕に変わった。彼が指した方には海面からふわりと煙のように持上がる黒い固まりがあった。それは紛れもなく艦らしい形をしていた。が、突如として真赤な閃光に包まれると見る間に、天空に四散した。
怪また怪! 第二の怪事件起こる。
鍵は何処に
意外なる第二の怪事件突発に調査団員も護衛艦隊の乗組員も共に、大驚愕のうちに生色を失った。おお、吾々は気が確かであろうか。吾々は夢を見ているのではなかろうか。夢でなければ今我々は生命の危険に瀕《ひん》しているのだ。どうしたら、それから免れることができるだろうか!
その中に、さすがワーナー博士は誰よりも落ち着きを保持していた。博士は、サンキス号の観測室から、同じ船に坐乗している護衛艦隊の司令ペップ大佐に対し、適切にして明快なる指令を発した。
「ペップ司令、われわれは即時トップ・スピードでこの海底地震帯から脱出しなければならぬ。但し駆逐艦二隻は、しばらく現場に停り、不幸なる駆逐艦D十五号の遺留品を出来るだけ多く収容したのち、速やかにわれわれの跡を追うように取計《とりはか》られたい」
この指令を、高声器から受取った司令ペップ大佐は愕然《がくぜん》と正気に戻った。この司令はさっきからずっと船橋の展望|硝子《ガラス》戸を通して海上の恐ろしい惨劇に魂を奪われていたのだった。
「御尤《ごもっと》も。直ぐ発令します、ワーナー団長」
二分間ほど間をおいて、ワーナー博士のところへ司令から報告があった、司令は博士の指令を実行に移したと。その頃にはサンキス号も際《きわ》どい急回頭を終わっていた。先刻までは右舷から差し込んでいた夕陽が、今は反対に左舷から脅かすような光を投げこんでいる。ひどい震動が乗組員たちの足許から匐《は》いあがってきて脳裡にまで響いた。サンキス号は今や最高速力をあげ、第二の怪事件の起こった現場から死物狂いで脱出しつつあるのだ。
三人の新聞記者たちも、それぞれの形態でこのすさまじい戦慄の空気の中に息を停めていた。ドレゴは水戸にすがりついて震えていたし、水戸は水戸で火の消えた煙草をしきりに吸いつつ硝子戸越しに泡立つ海面へ空虚な目を停めていた。ホーテンスは拳をこしらえて彼の頸のうしろをとんとんと忙しく叩きながら、わけも分からぬ言葉を繰返していた。誰も気が変になったように見え、或いは生ける屍のようにも見えた。
白髪|赭顔《しゃがん》
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