が、こうなんだ、――君は君の寝室へ飛込んだゼ号の手斧に放射能物質が付着しているかどうか確かめたことがあるだろうか、もし君がそうした注意を怠らなかったとしたら、君は今日サンキス号の客になりはしなかったろう、君の崇拝者より――というのだ」
「へえ、そいつは愕いたね」
水戸はドレゴの顔を改めて見直した、この友は、このことをなぜ二日間も黙っていたのだろう。
「で君はどう思う」
「そういわれりゃ僕も手落があったよ」
と水戸は手斧に放射能物質が付着しているかどうかを調べようとはしなかった点に手落のあったことを認めた。
「だがね、いつもいうことだが、そんなことは本事件の中の末梢部分なんだ、どっちでもよい、いや僕は恐らく手斧に放射能物質は付着していないと思う、それよりも問題として捨てておけないのは、その手紙を寄越した『君の崇拝者より』というやつだが、一体誰だね、君の崇拝者というのは」
「さあ、さっぱり見当がつかないよ。全文タイプでうってあるしね」
「その手紙、持っているかい」
「うん、ここにある」
ドレゴは、ポケットから皺くちゃになった封筒を引張りだして、水戸に見せた。
水戸は、それを拡げて見ていたが、やがてにやりと笑って、それをドレゴに返した。
「この手紙を書いたのは女だよ」
「へえ、女か、どうしてそれが分る」
「とにかく女だと分る。しかしこの警告は、果してこの女から出たか、それとも他に糸を引張っている者があるかどっちか分らない。それはそれとして、われわれは今まで少し呑気《のんき》すぎたよ。これからはもっと注意を深くせにゃならない」
水戸は、そう言ってドレゴに警告した。
「おお君たち、わが艦隊の勢揃いを見て愕いたですか」
背後から声をかけられて、ホーテンス記者がやって来たのだと気がついた。
「わが艦隊?」
ドレゴが目を丸くした。
「ああ、あれだ。駆逐艦らしきものが三隻、こっちに潜水艦が二隻……」
水戸は数えた。
「そのとおり。われわれはこの調査の遂行に万全を期している。用意は周到である。しかし君たちは、あまり大袈裟《おおげさ》だと笑うだろう」
ホーテンスがそういった。ドレゴと水戸とは共に頭を左右に振った。
「もう調査は始まっているの」
ドレゴが訊いた。
「観測はもう始まっている」
「何か手懸りになるようなものが出ましたか」
と、水戸がたずねた。
「いや、まだ
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