ンドン港がくさい。これからロンドンへ網をかぶせるべきだ。誰か四五名、ロンドンへ行って貰おう。特別に社機を出して貰うよう、局長には話をして来たぜ」
「よし、僕が行こう」
「僕も行く。ワーナー博士一行の生残者か、それとも遺骸かもしれないが、とにかくそれがロンドン内に隠されていることは間違いなしだ」
「うん。成功を祈る。君たちの……」
こんなことから、ロンドンに俄《にわか》にスポット・ライトが向けられた。
約束の手紙
話はアイスランド島のオルタの町へ飛ぶ。
今やエミリーは悲しみのどん底にあって、涙と共に日を送っていた。大西洋海底におけるワーナー博士一行の遭難事件、それによって明らかにされた戦慄すべき怪人集団の暴行。彼女の愛人水戸の安否は今のところまだ確められていないが、四囲の情勢から憶測すると、まず彼水戸の運命は芳しからぬ方向を指しているとしか思われない。
ドレゴ記者は、エミリーを毎日のように慰問に来るが、来るたびにエミリーに泣《な》き縋《すが》られてほとほと閉口の形だった。といってエミリーの片恋を知った以上、そのままに放っておけない。彼は進まぬ足を引摺るようにして、エミリーを慰めに現われるのだった。
そのドレゴが、或る日いつもよりは明るい顔で、エミリーの許を訪れた。エミリーはサンノム老人の下宿の勝手許から、白いエプロンで手を拭きながら出て来た。早くも彼女の手には、ピンク色の絹のハンカチーフが丸まって握りこまれていた。
「やあ、エミリー。今日は珍しい人から手紙が来たよ」
「あら、うれしい。水戸さんから……」
「何でも皆、水戸の話だと思っちまうんだね。違うよ。水戸から手紙が来たんだったら、すぐ電話をかけるよ」
「まあ、つまんない。じゃあ誰から」
「ケノフスキーからだ。モスクワから出した手紙なんだ。これは僕が、約束しておいた手紙なんだ」
「……」
「ほら、これだがね。これを読むと、また面白いことになって来たよ」とドレゴは封筒から出した用箋をひろげながら「こういうことが書いてある。読んでみるよ。――“ゼムリヤ号事件は、まことに不幸な出来事ではあったが、一面から考えると、それはわれらのために全然マイナスではなかった。何故ならばゼムリヤ号がああいう事件に遭わなかったとしたら、わがヤクーツク造船所の技術が如何に優秀なものであるかを、世界の人々はまだ了解する機会を持た
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