類は突如として測り知ることの出来ない脅威に曝されることとなった。目下のところ彼等怪人集団の勢力は大したものではないが、われら世界各国民は一致協力して、直ちに大警戒を始めねばならない。世界各国はこれまでの対立を即刻解き、その総力を結束して、われら地球人類の防衛に万全を図らねばならない”
なんという驚愕であろう。「従来地球上にその存在を確認されたことのない高等生物の集団」が大西洋の海底に蟠居していることが発見されたというのである。アメリカン・インディアンが白人コロンブス一行を迎えたときの驚愕、エスキモー人がロシア人を見たときの驚愕などは、今回の事件に比べると桁ちがいの小さい驚愕だ。世界の全同胞にとって恐るべき険悪なる事態が急にやって来たのだ。彼等は一体何物? そして彼等に対し、如何なる手段をもって如何に対すべきであろうか。
政治家も軍人も財閥も技術者も科学者も、この驚異的事態を真に了解した者は、いずれも皆茫然自失の結果、虚脱状態となってしまった。どうしたらいいのか、何も考えられない。どこから手をつけてよいか皆目わからないのだ。これが人間同士なら北の涯の者と南の涯の者の間にも、言葉は通じなくとも何とか意志を通ずる方法もあるし、相手の気持も能力も信頼度も、まず大体察知し得られる。ところが今の場合のように、これまで全然|交際《まじわ》ったことのない高等生物に対するということになると、どうしてよいか、どこから始めていいか、さっぱり、見当がつかないのだ。
時刻が移るに従って、事態はいよいよ深刻化していった。それは第二報が警告している内容の如何に重大なるかが世界各国にぼつぼつ分りかけて来たからであろう。
それでも世界の一部には懐疑病に取憑れた政治家があって、その報道の荒唐無稽なること、それが某国のためにする神経的威嚇であるとして攻撃を加えた。しかしこういう人達は、恐らく頭上に原子爆弾が落ちても、身は真黒焦になってしまった後でも、原子爆弾の威力を信ずるとはいわないひねくれ者一派にちがいなかった。そういう一派はいつの世にも必ず棲息しているものだ。
世界連合の臨時緊急会議がロンドンで開催せられた。これはいわずとしれた、大西洋海底の怪人集団に対するわが全世界の態度と処置を議するためのものだった。
その会議は、なかなか纏《まとま》らなかった。それは怪人集団に対する全世界の歩調一致
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