あるのだ。さきに、超音波の方向探知機で探しあてたものは正にこれに違いなかったし、そして当時想像していたよりも実物はずっと巨大なものであった。
突然大砲を撃ったような大きな音が聞こえた。そして水戸が立っているところから十メートルばかり横のところが爆発したように思った。水戸は周章《あわ》ててその場に寝た。
それは爆発ではなく、多量の空気がぶくぶくと噴出したのであった。間もなく城壁の一部ががたんと外《はず》れて横たおしになった。それはお城の吊橋《つりばし》を下ろしたような工合のものであった。果たして中から、どやどやと数人の姿があらわれて海底に立ったその姿をよく見ると、まるで大きな南京豆《ナンキンまめ》を縦にしたような形をしていた。そしてその下部や胴中から、細い肢や手のようなものが出ていた。これは例の怪物が潜水服を着た姿なのであろうと、水戸は諒解した。
怪物の一隊は、ぞろぞろ歩きだした。その向かうところを辿って行くと、ワーナー調査団の連中の倒れている場所が彼等の目的らしく思われた。一体何が始まるというのであろうか。
怪物どもは、ずんずん歩いて行って、やがて目的の場所へ着いた、すると彼等は、倒れている船員を軽々と引張って、こっちへ引返してきた。水戸は城壁の中に引きずり込まれた五名の仲間を数えた、もうそれでお仕舞かと思って前方の海底原を見るともう一組だけが残っていた、と、その一組が突然格闘を始め、怪物対人間の死闘であったが、人間は怪物の敵ではなかった。忽ち人間の方は、怪物にのされてしまい、怪物は倒れた人間の足を肩にして逆《さか》さに担ぎ、悠々と城壁へ戻りついた。
「あ、ホーテンスだ」
逆さになった潜水服の硝子越しに、水戸はホーテンスの無念の顔をちらと見た、だがどうする事もできなかった。
後退の努力
水戸記者は、よっぽどその場に躍出し、ホーテンス記者を奪還しようかと思った。だがそれを決行する一歩手前で思い停った。ホーテンスが、あの怪しい海底の城塞みたいなものの中へ俘囚《ふしゅう》として連込まれるのを見るに忍びなかったけれど、もし今起出せば、水戸自身もやっぱり俘囚の仲間入りをするに決っていた。だから忍び難いことだがここは一旦|怺《こら》えなければならないと思ったのである。
海底城塞の掛橋みたいなものは、ぎいっと怪音を発して、軟泥の嵐をまき起しながら大きく動いて
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