感じて、はっと目をあいた。
「あっ!」
彼は思わず愕きの叫び声をあげた。信じられない位の意外な光景が、転がっている彼のすぐ上に展開しているのだった。そこには幅の広い大きな飾窓のようなものがあって、内部は舞台のように明るく照明されていた。そして複雑な器械類は、いまだかつて実物はおろか写真によっても見たことのない奇形な形をしているものばかりで、何に使うものやらさっぱり分りかねた。
(一体ここはどこだろうか。あの明るい部屋は何だろうか)
彼は自分が海底に寝転っていることを再認した。これはあまり時間を費《ついや》さなかった。しかしその明るい部屋が何処であるかについてはすこしも心当たりがなかった。
(待てよ。前方に沈没した船のようなものが海底に横たわっているという話だったが、その沈没船かしら。いや、沈没船がこんな明るい部屋を持っているわけはなかろう)
彼は自分の頭脳が機能を半分も失っているような気がして残念でならなかったが、ようやく気がついたことは、前方の海底に横たわっているといわれたのは実は沈没船ではなく、なんだか訳は分らぬながら、それは今頭上に見えている明るい部屋を持ったものであること、そして今自分はその窓らしいものの下に横たわっているのだと悟った。
(沈没船でないとすると、一体これは何であろうか。もしや海底の要塞でもありはすまいか)
そう考えついて、彼が瞳を見張ってその明るい飾窓のような部屋の中へ懸命の視力を集めたとき、彼は再び叫び声をあげなければならなかった。
「おやっ。あれは何者だ。あの異形の者は……」
どこから現れたか、明るい部屋の器械の間に、人間の頭部の二倍もあるような大きな頭を持ち、そして顔といえば蛸《たこ》に嘴《くちばし》が生えたような怪しい面つきで頭部の下は急に細くなって高麗人参の根をもっと色を赤くし、そしてぐにゃぐにゃしたような肢体を持っている怪物が四つ五つ、身体を重ねるようにして立って、こっちを向いていたのであった。
深海の争闘
「おお、あれは何者か。妖怪変化か。自分は気が変になったか。それとも悪夢を見ているのだろうか」
水戸記者は激しい戦慄《せんりつ》に襲われながら、真相を知ろうと努力した。
だがそれは夢ではなく、また気が変になったせいでもなかったらしかった。現実なんだ。自分はありありと、海底における怪奇極まる光景に接しているの
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