湾を出てからこの方、銀座通りもない海上をこうして小笠原列島の南端にちかい父島までやって来たことだから、若い女なら一応誰でも美人に見えるはずであったが、そんな割引をしないでも、たしかにかの女は美しかった。
「誰だい、あの遅刻組は」
僕は、その女から眼をはなさないままでボーイにたずねた。
「あれが火星研究で有名な轟博士でいらっしゃいます。大隅さんはご存知ないんですか」
そういわれてみると、僕はすぐ合点がいった。そうだ、正しく東京近郊の日野に天文台を持っている轟博士だ。
「あのご両人以外の博士一行は、もうちゃんとこの汽船に乗っていらっしゃるんですよ。ところがけさ宿をお出かけのとき博士が急病になられて、乗船がこんなに遅れたというわけなんで」
「あの婦人は、轟博士の娘かね」
「さあどうですか。私はそこまで存じませんが、立ち入ったお話が、あの方はちょっと別嬪さんでいらっしゃいますな。えへへへ」
ボーイは、ふたたびいやらしい笑い方をして、甲板を向うへ歩いていった。
船内からは、博士を迎えるために、若い男が四、五人現われて、若い婦人にかわって博士を中へ抱えいれた。僕はちょっと、その男たちがうら
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