つれあいにも秘密厳守で進めて頂きますから、そのおつもりで」
谷間シズカ女は椅子から立上った。
甥《おい》の蜂葉《はちは》助手
女客を送出した帆村が、読書室へしずかに足を踏み入れたとき、窓ぎわに立っていた青年がふりかえった。
「おじさま、お早ようございます」
「やあ、ムサシ君か」
甥の蜂葉十六《はちはじゅうろく》、十六だから〔十六|六指《むさし》というゲームがあるから〕ムサシだとて帆村は彼をムサシという。しかしこの古い洒落《しゃれ》は今どきの若い者には通じない。
「僕はみんな聞いていましたがねえ」と蜂葉は壁にはめこみになっている応接室直通のテレビジョン装置を指し、「おじさんは今の女に惚《ほ》れているんですか」
物にさっぱり動じない老探偵ではあったが、彼の甥だけは老探偵の目をむかせる特技を持っていた。――帆村は目を大きくむいて失笑した。
「惚れているとは……よくまあそんな下品な言葉を発し、下品なことを考えるもんだ。今の若い者の無軌道。挨拶の言葉がないね」
「だって、そういう結論が出て来るでしょう。おじさまは今のお客さんから当然聞き出さなくてはならない重大な項を、ぼろぼ
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