る瞬間、硬くなったように見えた。しかし彼はすぐ次の問で追いかけた。
「おつれあい様とご一緒におなりになりましたのは何年前でございましたか」
 帆村は、客が案外短い年月をのべるだろうと予期した。
「三ヶ月前でございました」
 ほう、それは予期以上に短い。この二十四五歳になる婦人としては、つれあいを持つには遅すぎる。しかもあの通り麗《うる》わしい女人なのに。
「失礼ながら、たいへん遅く御家庭を作られたものですな。その前に、別の方とご一緒であったことはございませんでしたか」
 女客は明らかに憤《いきどお》りの色を見せ、つんと顔を立てた。
「あたくしのつれあいは碇曳治《いかりえいじ》でございます。桝形《ますがた》探険隊の一員でございますわ。そう申せばお分りでもございましょうが、桝形探険隊は今から六年前の昭和四十六年夏に火星探険に出発しまして、地球を放れていますこと五年あまり、今年の秋に地球へ戻ってまいりました。これだけ申上げれば、あたくしがこんど始めて家庭を持ったことを信じていただけると存じますが、いかがでございましょう。実際あたくしは、あの人と知り合ってから六年間という永い間を孤独のうちに待
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